レクイエム 白い煙が消えたそこには、見慣れたスーツ姿の青年が立っていた。 「おかえり、ボス」 「ただいま…山本、獄寺君。2人とも本当に有難う」 にっこりと微笑む我らがボスの姿に、獄寺は顔を真っ赤にして口を開けたまま固まっていた。 「獄寺、どうした?…ああ、10年後のツナを見るのは初めてなんだな」 「獄寺君も山本も背が伸びてかっこ良くなったのに、オレだけあんまり伸びなくてさ。そんなに変わってないでしょ?」 それでも14歳の獄寺よりもいくらか高いツナが屈み込むように固まったままの獄寺の顔を覗き込むと、獄寺の顔が更に赤くなった…おいおい、オレの時にはそんな反応しなかったクセにな。 「色々言いたい事もあるんだけど、時間がない筈だから…」 そう言って獄寺の頬に掌をあてると、ツナは目を細めて囁きかけた。 「獄寺君、本当に有難う…今も昔も、君は立派な右腕だよ」 「じゅっ、じゅうだいめっ!」 感極まって目尻に涙を浮かべて叫ぶ獄寺に再び微笑みかけると、ツナはこちらに身を寄せて小声で呟いた。 「山本にも色々あるけど…しばらくは人払いしとくから」 「ああ、サンキュ」 見上げたその目が僅かに潤んでいたようだが、追求せずにツナの心遣いに感謝の言葉だけを投げると、我らがボスはひらりと手を振って部屋を出て行った。 「おい、獄寺…大丈夫か?」 「あ、ああ…」 ぺちぺちと軽く頬を叩くと、ようやく我に返った獄寺がそれでもどこか呆然としたまま大きく息を吐き出して、ツナが消えた扉を未練がましくじっと見つめた…ったく、未来のコイビトの前でその反応はねえだろ? 残された時間はあと僅か…もうすぐこいつは10年前に帰っていく。そして、あいつが帰ってくる。 14歳の獄寺には、オレ達の事は何も話していない。この騒乱の前からしばらくあいつに逢っていなかったから、目の前でツナに屈託のない笑顔を向ける獄寺の姿を見せつけられては、ひっそりとため息をつく事もしばしば、だったのだ。 まあ、後の事は10年前のオレに任せるとして…ひとつだけ、この獄寺に言わなければならない事があったのだ。 「獄寺…頼みがある」 両肩を掴んで、無理やりこちらを振り向かせる。今も変わらない翠の瞳を見下ろしながら口を開きかけると、先に獄寺が声を上げた。 「…あいつには、親父さんの事は黙っててやるよ」 労わるような穏やかな声に目を見開くと、獄寺は泣き出しそうに顔を歪めながらも精一杯笑った。 「大丈夫だ。オレがあいつの親父さんも守ってやるから…お前の親父さんは絶対死なせねえよ」 (剛はお前の事が一番なんだからな。愛されてんな、山本!) 生まれ育った家と自ら縁を切ったという獄寺にとって、オレと親父は第二の家族のようなものだった筈だ。日本に帰れば一緒に家に帰り、親父の握る寿司を美味しそうに食べ、オレよりも頻繁に親父と連絡を取り合っていた。 親父の死を知らないまま10年前に飛ばされたあいつが戻ってきたら、一緒に親父を見送ってくれるだろうか…オレはそんな事ばかり考えていたのに、この10年前の獄寺は「死なせない」と約束してくれた。 (愛されてんなあ、武) 家の茶の間で転寝をしていた時、いつの間にかかけられていた獄寺の上着を見て、親父が苦笑交じりに呟くのを寝たフリしたまま聞いていたのを思い出した。 ああ、本当だな…親父。 堪え切れなくなって腕を伸ばしたその時、再び真っ白い煙が湧き上がった。それが収まるのを待ちきれずに煙の中に腕を差し入れると、指先に触れた感触を引き寄せて抱きすくめた。 「…ったく、いきなりコレかよ」 呆れたような声を上げながらも背中に回された両腕に、更に腕に力を込める。首筋に擦り寄るように頭を預けると、背中を離れた片腕が後頭部を引き寄せた。 「ただいま…武」 落とされた声が静かに胸奥を叩いて、この2ヶ月封じ込めていた思いが溢れ出した。 自分を納得させる為にぐるぐる考えて書きたい事全部詰め込んだものだったので、説明くさいやら長いやらですみません(汗) それでも収まりつかずに、更に続いてます…(汗)/わんこ |