Roy G. Biv(アルコバレーノ)



暖かいひざしを顔に受けてふと目が覚めた。
カーテンを開けて寝てしまうなんて、オレらしくもねぇ。
それに手を伸ばそうとして、視界に入ったのは赤ん坊ではなく、大人の手だった。
世界が止まったかと思ったが、ナイトランプ横に転がった腕時計は時をきっちり刻んでいた。その音を聞きながら、左手を開いて閉じてみる。自分の意のままに動く。確かにオレの手だ。両手を広げて閉じる。恐る恐る体を見ると懐かしい自分の体があった。
今がいつか、知りたくて部屋を見回すが、見慣れないこの部屋には律儀に針を動かす腕時計以外何もなかった。ひとまずそっとカーテンを閉じるが、朝の光に溢れた室内は妙に清廉でそのままベッドに座り込む。傍らに同じようにシーツにくるまれる人がいる。頭まで被っているその人物を知りたいような知りたくないような。
「――ランボ」
返事を期待したわけじゃない。
自分の声が聞きたかった。
「ランボ」
震える声だった。けれど、確かに数年ぶりに聞く自分の声、だった。
「――今日は昼まで寝るって言っただろ?」
シーツが蠢いて音を立ててめくられた。中にいるのは――二十年後のランボだった。
「やれやれ、その顔だとまたか。きなよ」
ランボが両手を広げてオレを招く。動かないオレの腕を引く、とその腕はひざしのように温かかった。柔らかくシーツごと抱きしめられる。
「あんたは呪いがとけて、元の姿に戻ったんだ」
一言ひとこと、噛みしめるように言い含められる。
白いシーツ越しの光は乳白色に変わる。額をつけられて、翠の眸が微笑む。
「そして、今日は昼過ぎまで寝るって、夕べのあんたは言った」
ランボの暖かい肢体に包まれて、ぼんやりとした暖かさにくるまれる。
そう、このまま目を閉じるのは幸福かもしれない。
「だから、思い存分寝て過ごそうよ」

鏡で見てもなんだか面映ゆかった。寝ぼけているのか、はっきりしない。それでもネクタイを締めてボルサリーノを被って。体が覚えている。このドアの向こうはボンゴレ総本部に直結する、くすんだ赤い絨毯を敷かれた廊下が続いている。肩のレオンの顎を撫でるとくるると喉を鳴らすが、もう何を言っているかわからない。人間以外との会話能力は呪われた能力の一つだったが、長年連れ添ったレオンが何を言っているのかわからないわけがない。
「おはようございます、リボーンさん」
ボンゴレ配下のマフィオーソーが声をかけてくる。
「違う!今日は偶数の日だから右のカラバッジョ"聖ルキアの埋葬"だ!」
角を曲がると、ラル・ミルチが雄々しく部下に指導をしていた。朝からご苦労なことだ。まだコレやっていたのか。家光が考えた、間違うと壁に激突するアホな進入方法。ラルに片手を軽く挙げて挨拶をしてツナの執務室へ向かう。
両開きの扉を開けると眩い朝の光に溢れる。
「おはよう、リボーン」
シャンパン・ゴールドのサテンのベストにすら光が反射する。馬子にも衣装。
「朝飯前にここにいるのは珍しいな」
「そりゃもう、トラブルだらけだし」
革のファイルが一つ空中を回転して手元に届く。留めている紐をくるくると外すと、中から出てきた資料は昨日の日付の請求書と決済を待つ書類の束。
「オレの守護者は何を守護してくれちゃってんのかねぇ」
ツナが柔らかく笑った。
――なんで、こんな平和、なんだ?
オレは釦を掛け間違えたような整合性の無さをぬぐえなくて、首の後ろをさすった。






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