Roy G. Biv(アルコバレーノ)



「…ボーン、リボーン先輩」
「あぁ?うっせーぞ」
体を揺すられてリボーンが我に返ると、スカルがいた。細身に黒のライダーズ・スーツ。ヘルメットを傍らに持ち、紫の髪と眸が心配そうに揺れていた。
「考え込んでいるかと思ったら寝てんですか?」
「年取ると夜が早くなるからね」
紫煙や甘い香りの漂う店内。彼ら五人以外はひとけがない。思い思いのソファに座っている。リボーンは白昼夢を見ていたようだった。オレンジの光がかろうじて、暗闇の中の形を浮かび上がらせる。
――やっぱり夢だったか。
ボンゴレはおろかどこのマフィアも手の届かないアングラのバー。密かにファミリーの壁を越えた呪われた赤ん坊達が揃っていた。
ユニ以外は普段の赤ん坊姿から力を解放して本来の姿に戻っている。彼らはおしゃぶりの力を解放する時に、赤ん坊の姿からも解放されることができた。リボーンは磨かれた革靴を反対側の肘置きの上で改めて組み、顔の上のボルサリーノを胸の上へと移動した。悪態をつくマーモンは、少年の姿でどこのものとも知れない紙幣を数えていた。顔を隠すマントの上ではファンタズマがレオンと何かを話すように顔をつきあわせていた。
「バイパー(チビ)こっち来い。締めてやる」
「行ってもいいけど五百ユーロ頂戴」
二人の会話に割り込むでもなく、本当にそう思っているらしい口調でアジア系の男が口を挟んだ。
「用事が無いなら帰るけど」
仏頂面の癖に、ユニに後ろ髪を結わせながら言っても納まりが悪いぜ、この野郎。と、釣り目の男を半眼で睨む。リボーンは彼の名前を未だ教えてもらっていなかったが、リボーンだって自分の本名を公表しているわけじゃないからおあいこだ。
マーモン以外の胸元のおしゃぶりが光り始めた。赤、オレンジ、緑、そして黄色と。他のアルコバレーノが近付いた証だ。
「遅れたぜ、コラ!」
入り口のドアが開くと、ファルコに吊られたコロネロだった。胸元には大きめのおしゃぶりが青く光っている。
「なんだみんなそのナリか、コラ!」
小さな手に光るそれを持ち、精神を集中させる、と青い光がおしゃぶりから放たれてコロネロを包んだ。光の奔流の中で、大人のシルエットがかたどられて、眩い奔流が消えると顔にかかる金髪をうざそうにかきあげる男がいた。
「遅くなった」
続いて、顔の半分以上がカバーされるスカウターで顔を隠した黒髪のラル・ミルチが現れた。暗い室内でスカウターを襟元に下ろして、素顔を晒す。
「ちゃおッス。これで全員揃ったな。招集の理由をそろそろ教えろ、ヴェルデ」
全員の視線が一つだけ不自然に空いたソファの部分に集中する。
「たまには顔を見せろ、コラ」
「まるでファンタスミーノ(お化け)だね」
「――ノン・トゥリニセッテって判るやつはいるか?」
何も無い空間から神経質そうな高めの声がして、質問の内容を問うように、コロネロはリボーンを見遣った。
「ボンゴレリング、マーレリング、アルコバレーノのおしゃぶり全部をコレクトすると現れる最高権力の鍵、トゥリニセッテならあるが。ユニ、何か知っているか?」
左目の下に五葉の紋章を記した少女は、ふるふると首を左右に振った。小さな頭を覆う帽子の両端の房も遅れて揺れた。
「御託はいいから用件に入れ」
壁際で腕を組むラル・ミルチが冷たく言い下す。
「詳しくはまだ調査中だ。この中で最近、殺気を常に感じていたり、狙われているやつはいるだろう?」
「あ、はーい」
ラル・ミルチとは反対側、奥の壁際の丸椅子に座っていたスカルが挙手した。ライダーズスーツがキュ、と音を立てた。
「最近、海上でよく銛を投げられるんですよ。どこから投げられているかわかんないけど」
「それはおまえのタコを狙って、じゃねぇの?」
「タコ焼きにするには大味だけどな、コラ」
「で?それとノン・トゥリニセッテがどう関係あるんだ?」
リボーンとコロネロが話を混ぜ返すのを、ラル・ミルチがすかさず矯正する。ラル・ミルチ本人の気にそぐわないだろうが、見事なコンビネーションだ。
「まだ予想の範囲を超えていないが、アルコバレーノの呪いと深く関与しているようだ。実験するわけにいかないからな」
「――それなら見えています」
赤のおしゃぶりを持つ男の膝に座っていたユニが口を開いた。






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