テンペスト



 白い煙が消えて、目の前に建つ見慣れた懐かしい家を見た瞬間、嵐のように湧き上がったのは郷愁と悔恨と殺意だった。
 今ここで自分が殺れば…しかし…。
(五分で何が…っ)
 与えられたチャンスに血が沸騰する程の歓喜が走ったが、自分に残された時間を思い出し再び失意に突き落とされた。
(せめてもう少しだけ、10代目に説明出来ていれば…)
「くそ…っ!」
 座り込んだアスファルトに拳を叩きつけると、リングが鈍い音を立てた。


「あっれー?獄寺…にしてはデカいな?」
 聴き慣れた声のそれよりも幼い響きに、獄寺ははっとして顔を上げた。
「武…」
「へ?何でオレの名前知ってんすか?…あ、もしかして獄寺の親戚?」
 よく似てんなー、と呑気に呟きながら手を差し伸べた山本が笑うと、まだ生々しい瞼の上の傷跡が目立った。


 恐らく、守護者のリングを巡る戦いが終わったばかり、の頃なのだろう。
 あの時、あれだけ峰打ちにこだわっていた山本が、一体いつから「人を殺す」事を受け入れるようになったのか、ずっと不思議だった。
「武…10代目が大切か?」
「ん、ツナの事か?そりゃ大事に決まってるだろ…そーいやツナ、小僧を探してるって言ってたな」
 躊躇う事なく返す山本の声に縋りつくように、俯いた獄寺は目の前に差し出された手を握り締めた。
「10代目の為に…人を殺せるか?」
 獄寺の手の中で山本の指先がぴくりと動いたが、握り締める手に一層力を込めた。
「10代目を助ける事が出来るのは、お前だけだ…山本武」

(お前に人を殺す事を命じたのは、オレだったのか…)

「…どうしたらツナを助けられるんだ?」
 先刻より幾分低くなった声は、今の獄寺がよく知る響きを帯びていた。その声音に導かれるように顔を上げると、獄寺はタイムリミットを惜しむように山本から視線を外さないまま1枚の写真を取り出した。






この24獄はこの時点では、5分経ったら戻るって思ってる、っつー事で。24獄が「自分も昔10年後に飛ばされた」「5分じゃ戻ってこれなかった」って事を知らないのなら、未来は変わる可能性はある!っつー事で。希望的観測で!/わんこ






もうひとつの嵐