WANTED!!



――まるで嵐だ。
ディーノは止むことのない敵の攻撃に、目に流れ込む血を拭って感覚をなくした腕を上げ、鞭をふるった。
イタリア南部。ある港町の守護者・キャッバローネ・ファミリーの屋敷では止むことなく爆撃が続き、屋敷の崩壊と死者が刻々と増えていた。

前触れなく攻撃を受けた時、ディーノはボンゴレからのホットラインを受けたところだった。用件を聞く間もなくすぐに不通になった。衛星を介した、決して切れることがないはずラインだった。
攻撃を受けた瞬間にキャッバローネの屋敷の窓という窓全てに鉄製の扉が降り、非常灯に切り替わる。非戦闘員は広い屋敷内の各所にある入り口から地下のシェルターに逃げ、戦闘員は武器を手にして迎撃の準備を整えた。敷地内に複数、同時に攻撃されたのをモニターで確認し、攻撃パターンを即座に分析し、敵が訓練された軍人でなおかつ、自分たちの軍事状況が筒抜けになっていることを認めざるを得なかった。 しかし、キャッバローネの拠点全ての防護体制はこの数日で秘密裏に強化され、トラップも多数仕掛けていた。そう、全ては、
「ツナのおかげだな」

最後に綱吉と話したのはいつだったか。ファミリー間のリング争奪の抗争が激化する中、超直感からなのか綱吉はディーノにシマの守りの強化と篭城の準備をしておくことを話していた。
『もしかしたら、なんですが、今のコレは想像もつかないような展開になるかもしれない。ボンゴレもそうだけれど、誰も彼もがたかがリングの為に箍が外れていると思いませんか?俺たちにはリングがないけれど、俺たちだって明日はどうなるかわからないです…。ディーノさんも念のために何かしらの用意をしていた方がいいかもしれません』
ボスになってもマフィアという既存のシステムをどうにかしようと足掻いていたボンゴレ10代目・沢田綱吉。
ドン・ボンゴレといういかめしい単語がそぐわない、子供のような茶色の瞳と捻じ曲がった心を小さな体に共存させていて、それが痛ましく、また誇らしく、昔の自分を重ねてディーノは本当の弟のように可愛がっていた。
『考えすぎんなよ、ツナ。気晴らしにそっちに行こうか?』
軽口で返したが、綱吉には笑って断られた。もしかしたら、あの時、あの大きな瞳にはこういう未来が見えていたのかもしれない。
ボンゴレリングは継承者の証であるにも関わらず綱吉の代で粉々に破壊した。伝統があるリングというだけでなく、マフィア界全体のトップに立つための巨大な抑止力になるはずだった。守護者ほど強く反対したと聞いた。その場にいたら自分も反対しただろう。
”力”が物を言う世界のパワーバランスを作るのは数多の小さな力ではなく、大きな力一つだ。それが正しい使われ方をしている限り、社会全体に影響が出るほどのトラブルはなくなる。即ち、ボンゴレが持っている限り大丈夫。誰もがそう思っていた。
『でも、それを狙ってまた抗争が始まるでしょう?盗まれるかもしれない、誰かの手に渡るかもしれない、ブラッド・オブ・ボンゴレにしか反応しないリングだとしても、どこでまた自分たちのような闘いが起きるかもしれない。そんな可能性を完全になくしたいんです。仲間も失いたくないんです』
と、何も持っていない剥き身の抑止力を選んだ。継承者の証がないということは、ボス一人をやれば次のボスになれる。攻撃の対象が自分ひとりに向けられる覚悟をしたということ。
対して、自分たちキャッバローネ・ファミリーの証は左腕に輝く跳ね馬のタトゥー。物ではなく、直接体に刻まれる力の証。これは奪うものでも奪われるものでもなく、精神として引き継がれる物。そのタトゥーを見るだけで、ファミリーの誰もが弱った心を奮い立たせられる物。

凶弾に倒れた部下を目にして奥歯を強く噛み締めながら、ディーノは血にまみれたスーツのジャケットを脱ぎ捨てる。こびりついた血をふりはらうように、数度鞭をしならせ、自分の弱い心を打ち直した。
「護りを固めろ!負傷者は地下へ!対戦車用はどうした?!」
あちこちで怒号が飛び交い、建物が崩壊し、マシンガンが連射され鼓膜を震わせ続ける。
幸い、街自体には攻撃を受けていないことが街にいる部下から連絡が入った。キャッバローネとの連絡員で誰もファミリーということを知らないはずの男に、そのままキャッバローネに近寄らず一般人のふりを続けるよう叫ぶ。
倒しても、敵の数は減らない。それでも負けるわけには、いかない。
「お前らはそこを退くなよ!!」
ディーノは雄叫びをあげながら一人、一個小隊へと走り出した。






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