言葉をめぐる旅が始まる。



どうしてこうなっているのかわからない。
なんで、コイツに抱かれているのか。
コイツの腕の中が心地いいって思うなんて――。

「獄寺、重要任務だ。山本と花見の場所を探せ。去年のとこは飽きたぞ」
リボーンさんは10代目の家庭教師だが、それ以上にイベント好きのような気がする。リボーンさんはもとより、10代目に喜んで頂く事が命題のオレにとっては、異論があるはずもなかったが、山本と一緒というのが気にかかった。
「オレ一人で充分ッスよ」
「地元の人間を使うのが効率的だ。ツナの右腕を目指すなら山本ぐらい使えるようになりやがれ」
「そうッスね!さすがリボーンさんです!」
二つ返事で引き受けたが、問題の山本が今日は休みだった。
連絡するかどうか迷いながら、携帯サイトで桜の開花状況を確認したら今週末が丁度見頃らしい。こりゃ早目に探さねぇとな。元旦からの気温が計600度を越えたら開花する、らしい。確かに今年は寒かった。雪もたっぷり降って10代目たちとよく遊んだ。
雪、で山本を思い出してしまった。あのときのマフラーは結局返してもらっていない。携帯を手にしても、サシで話をするのに躊躇われて結局メールにした。
”明日、学校来るか?”
”オレがいなくて寂しかった?”
すぐに返事が来た。元気そうじゃねぇか。なんで休んだんだろ。中身はスルーで用件を送る。
”リボーンさんに、お前と花見の場所を探せと命令が下った。今週末が予定日だから明日行きてーんだけど”
”OK。明日もがっこ休むけど、帰りに寄ってくれる?”
”無理だったらオレ一人でもいいぜ”
”大丈夫。明日、絶対帰りに寄って”
家庭の事情かなんかかな?メールでは元気そうだしな。風邪とかかよ。ま、青天の霹靂ってのもあるしな。

”今夜は冷え込むらしいから、あったかい格好して来いよ”
六限目が終わったと同時に山本からメールがきた。
10代目をご自宅まで送り、一度自宅に戻って着替えているとまたメールが来た。
”晩御飯はウチで食ってけよ”
しつけーっつの!返事をせずに、ブルゾンを手にでかけた。

「ちーっす!」
竹寿司の暖簾をくぐって引き戸を開けると元気そうな山本と親父さんがいた。
「らっしゃい、獄寺くん。腹拵えしてってよ」
夜の準備で出汁の匂いや何かが沸騰する音で中は温かかった。山本の親父は湯飲みにたっぷりお茶を入れて、カウンターにおいた。
「ごちそーになります」
山本は機嫌よく笑いながら横で手伝いをしていた。
「元気そうだな」
「獄寺君すまんな。コイツ喉が腫れちまって声出ねーんだよ」
「まじっすか?じゃ、オレ一人で大丈夫っすよ。おじさんに教えてもらってもいいし」
山本はおやっさんの肩を掴んで唸りながら首を振った。
「ってことで、すまんけど連れてってやってくれ」
「おじさんがいいなら問題ないっす」
本心は山本とふたりっきりになりたくなかったから渡りに船だと思った。
「おぅ食え食え。武、あさり!」
山本は安心したのか元の笑顔であさり汁を2つ盆に載せてこちらに回ってきた。
おれらの前におやっさんは趣の違うチラシ寿司をおいた。

言葉がなくても通じ合っている親子の絆をみつけてしまった。
胸の奥が少しだけ、ほんの少しだけ痛くなる。家を飛び出してから家には帰っていない。姉貴ともその話は絶対にしない。
そして、山本が苦手な明確な理由がひとつみつかった。
この親子関係を見せられるのが辛かったんだ。
「獄寺君?」
その声が山本にあまりにも似ていて顔を上げた。
心配した顔を見て気持ちを改める。感傷に浸っている場合じゃない。
「なんでもないッス。うまかったなぁってしみじみ噛み締めていたッス。山本、そろそろ行くか」
うん。とうなずいて山元は手早く食器を重ねた。
「片付けはオレがすっから用意してこいよ」
サンキュと口を動かせて山本は奥の部屋に消えていった。カウンターの向こう側のおやっさんに食器を渡し、代わりにもらった台拭きで拭いていたら山本が出てきた。
「武、古臭えがコレ着ていけ」
軽装の山本に親父さんは黒いインバネスを投げた。






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