インファンタイル



 背後からトンファーを振り下ろすと男はしなる鞭を頭上にあげて止めた。悔しいけれどそれを見越していた雲雀は右側、彼の利き手でない方から回し蹴りを入れた。
「声をかけてくれよー」
 夜目にも鮮やかな金髪と笑顔の男、ディーノはそれをも体を引いて躱して振り返った。
「何してる」
 左のトンファーを振り下ろすと鞭に絡め取られるから、仕込み鉤でディーノごとそれを押さえて右側から容赦なく横殴りにする。それをディーノは左手で受ける。
「恭弥を捜していた」
 少なくとも腕の骨になんらかの損傷を与えた筈だが、ディーノは取り上げたトンファーを背後に放り投げて鞭で何度か床を試し打ちをして構えた。
「不法侵入」
 雲雀はトンファーの先に仕込んでいた鎖を解き放ち、左右で違う渦をつくる。
「それは認める」
 ディーノは逃げるが勝ち、と身近の教室に逃げ込む。
「器物破損」
 机が整然と並ぶ教室を壊すわけにも行かず、ディーノの行動の源である足を狙って鎖を伸ばした。
「あー、それも認める。弁償するけど、これは恭弥じゃね?」
 明かりをつけられなかったディーノは雲雀を探す間、あちこちで転倒していた。
「問答無用」
 強か足を打たれ、派手な音をたてて机の間に倒れ込んだディーノは教室に入り込む雲雀と入れ違いに廊下に飛び出し、闇雲に走り出した。
「ちょっと。廊下を走るのは厳禁だよ」
 咎める声を待つわけもなく。ただ、律儀な雲雀の物言いに笑いながら自分の足にもつれて転倒した。タイミング悪く階段を転がり落ち、踊り場でようやく止まる。中空に得物を構えてヒットマンの目をした中学生がいた。
『ボス。まだ生きているか?』
 耳竅にセットしていた極小のイヤホンに腹心の部下の声が届く。
「なんとか!」
 まるで反射神経を取り替えたように敏捷に横に転がると、今までいた場所が陥没した。
『そのまま階段を下りて、右。次の階段を上がると屋上に続く』
 職員用の駐車場に止めたポルシェの中から、ロマーリオは指示を送る。ディーノが教室に飛び込んだところで、地図上の光点と通信が途絶えた。どうやら生徒の持つ携帯電話の電波を妨害しているらしい。室内から屋外へと誘導すると、二人の様子が見て取れた。
 ディーノは指示通りに走っていると、背後から雲雀の気配が消えた。どうやら行き先に見当がついたらしい。どこから来るか?と心構えをしていたら階段の上からもう一度雲雀が降ってきた。先に上の階まで回り込んだらしい。右から左から繰り出されるトンファーをなんとか避けて、雲雀の上部を取る為に走り出す。そうはさせないと、雲雀も階段の手すりを蹴ってもう一度飛ぶ。ディーノの鞭が雲雀の足にからみつくために伸びてきた。それをトンファーでたたき落とし、トンファーで引き寄せた鞭を反対にしならせる。
「ワオ」
 雲雀の口癖を真似て、ディーノはあっけなく自分の得物を手放すと、屋上へと走り出す。






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