夏が来る!



「ツッくん、それ食べ終わったら山本くんちと獄寺くんちに持っていってくれる?」
 お中元をより分けていた母さんに二つビニル袋を手渡されたのは、縁側でフゥ太とスイカの種を飛ばし合っていた時だった。
「ランボー、イーピン一緒行く?」
「暑いからやだもんね〜」
「ツナさん、ごめん、イーピン、のぼせてるー」
 二人は庭のビニールプールで遊びながら、ゆでだこのように赤くなっていた。
「それはのぼせじゃなくて、日焼けだよ」
 イーピンのつるんとしたおでこに触るとちょっと暑かった。
「かーさん、イーピンちょっと気をつけた方がいいかも」
「あらあら。ランボちゃんもちょっとお昼寝しましょうか?」
「やだー!もっと遊ぶもんねー!」
「だめだよ、ランボ」
 水鉄砲で攻撃するランボをフゥ太が抑えている間に、イーピンを抱き上げる。縁側にはバスタオルを広げて母さんが待っていた。
「じゃ行ってくる」
 期末テストが終わった日曜日は平和なもんで、縁側のある部屋の奥では浴衣を着たリボーンがすぴすぴと昼寝をしていた。相変わらず目は全開だ。夜中にうっかり見たら真夏のホラーだ。
 歩きながらビニル袋を覗くと水ようかんが数個入っていた。
 ――夏だなぁ。

 竹寿司はのれんが仕舞われていたので、裏口のドアを叩いた。おじさん昼寝してたらドアノブにかけておこうと思ったとこで、勢いよく開けられた。
「おう!ツナどした?」
「野球は?」
「午前だけ。気温上がってきたから午後は解散ってことで」
「あぁそうなんだ。これ、母さんから」
 一つのビニル袋を渡すとサンキュ、と言って残った方に目を留めた。
「獄寺君の。一緒行く?」
「あぁ。おやじー!ツナのお母さんから。ここ置いとくぜー」
 奥の部屋は暗くて、小さい返事だったからおじさんやっぱり寝ていたんだ、と思った。
「ちょっとツナと獄寺んち行ってくる」
 山本は踵をはきつぶしたスニーカーを慌ただしく履いた。

 獄寺君ちは中学生が一人暮らしをするにはかなり高級なマンションだった。
 一人暮らしってだけでもうらやましいようなうらやましくないような。
 部屋番号の後に何回エンターを押しても返事がない。オートロックのマンションって初めてで、あちこちのカメラから監視されているようでいつも緊張する。
「留守?」
「わかんない」
 郵便受けに入る大きさじゃないし宅配箱なんてそもそも使い方わからないし。
「玄関までなら怒られないかも」
 俺は家の鍵と一緒につけている獄寺君ちの鍵を目前の鍵穴に差し込んだら、魔法の鍵のようにスルスルと開いた。
 獄寺君はすぐにオレに部屋の合い鍵を渡した。
『何がなくてもオレの部屋は10代目フリーパスッス!入り口の鍵穴に差し込めばすぐ開きますんで!』
 いつも母さんが家にいたので、自分の家の鍵を持つ鍵っ子にあこがれていたけど、自分の家の鍵とほぼ同時に友達の家の鍵を持つなんて考えてもいなかった。そしてもちろん使ったのはこれが初めてだ。
「わー、開いたー、…山本?」
 ちょっとカンゲキしてると何も言わない山本を見上げた。瞬間頬が強ばっていたのを見てしまったけれど、無視することにした。
「なんか不思議だね」
「…あ、うん。つか、マンションとかオレ初めてだ」
「オレも。ええと13F」
 山本にボタンを押してもらうと、妙な沈黙が落ちた。






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