愛とは、見えないものである ホット・チョコレート・ドリンクはツナがお気に入りだったからランボだって何回か作ったことがある。だけれども、どうしても骸以上の笑みは貰ったことがない。悔しくて骸から手ほどきを受けて挑戦したけれど、結果は同じだった。 リボーンが日本に遊びに行こうと思いたったので同行したけれど、初めて見るそれこれにランボは目を丸くしたままだった。今までヨーロッパはおろかイタリア国内から出たことが無かったのだ。飛行機の機内食やワインにもいちいち感動して声を上げていたが、成田国際空港から東京駅にスカイライナーで降り立った時にいたっては、ぐるりと回りを見回してそれでも飽きたらず何度も何度も左右前後を見回した。 イタリアもわりと人種は少なめだが、ここはほぼ日本人しかいなかった。黒髪で黒い眸でみんな同じような黒っぽいコートやスーツだった。見えない動く通路があるように、電車が着いたら中身がでて形成した列毎入り電車が発車して、そして、という秩序めいた流れに動けず眺め続けた。どれだけ電車が来ても後から後から黒山の人が途切れることがない。 「なぁ、あの人達なに?」 「ジャパニーズ・ビジネスマン。女性もたくさんいるぞ」 スーツケースに腰掛け、長い足を組んだリボーンは急かしもせずにランボのしたいままにしている。一緒に降りた乗客はもうとうに改札へ向かって行ってしまった。気が済んだのかランボが振り返るとリボーンは携帯で何かを操作してコートのポケットにしまった。 「そろそろいいか?」 「あぁ。ごめん」 放り出していた自分のスーツケースを慌てて手にリボーンの横に並ぶ。 ――考えてみれば、リボーンの黒髪と黒い眸って日本人みたいだ。 改札の手前で切符を探すのは最早御約束。 駅からタクシーで銀座のホテルに向かう。ガラス張りの高層ビルや意外に溢れる英文字や各国の言葉が踊る看板や表記にランボは落ち着きを取り戻した。 「日本でもバレンタインってあるんだね」 「後でデパートに行ってみるか?」 「買い物?」 「ここのバレンタインを見せてやるよ」 バレンタインといえばバラの花束といくばくかの贈り物と。もしかして、イタリアのクリスマス並にデパートが混んでいるのかな、と予想をつけて、それでもやっぱり窓の外から目を離せなかった。まだ六時なのにもう真っ暗で寒さが増したようだった。煉瓦を敷き詰めた道の左右は真っ白な白光ダイオードで飾られた街路樹がまるでクリスマスのようで、日本のバレンタインはクリスマスみたいなものかな、と言う考えはますます強くなった。 「ワオ」 ホテルか五分ほど歩いたところのデパートは老舗らしく、ランボもよく知る宝石のブランドの路面店があった。そこから地下に降りるとそこはさきほどの駅の人混みもかくやと思うほどの熱気が渦巻いていた。すぐに二人をとりまく甘い匂い。頭一つ高いかれらの目にはフロアびっしりに人が、それも女性だけがひしめきあっていた。 「なんでイタリアの店があるんだ?」 「この時期だけ出店しているらしいぞ」 いつのまに手にしたのか、リボーンはフロアガイドを読んでいた。それを覗くと、ランボが知っているイタリアだけではなくベルギーやスペインの著名なチョコレートショップのロゴがが並んでいた。 「まさかここチョコレートだけ売ってるって言うなよ?」 「以外のもあるだろうけれど、大概チョコレートだな」 「…はぁ」 日本人ってめっちゃ甘党なのかな、もしかして。そうだよな。ツナもホットチョコ大好きなぐらいだもんな。納得したランボの表情を読んでリボーンは笑いを抑えられなかった。 「日本のバレンタインはチョコレートをプレゼントするって習慣らしい」 「バラがチョコに変わっただけか」 デパート近くをそぞろ歩きしている時に漂ってきた匂いにつられて小さな店に入った。でも、もう食べ物を摂取しなくなった二人はその店のバーでグラスを傾ける。 リボーンはデパート付近で配っていたフリーペーパーに全部目を通す。 「義理チョコってのもあるらしい」 「なにそれ」 「チョコレートをもらえないシニョールに可哀想だからと義理で渡すチョコだな」 「告白は?愛情は?」 「一月後のホワイトデーには三倍返しだそうだ」 「え?え?」 普段からリボーンが話すことは突拍子もない事が多いから驚くことは少なかったけれど、聞き慣れない単語の連続にランボは頭が飽和状態になった。どうやら常識を覆すことは極めて自分にとってはストレスフルなことらしい。 「ツナもそういうのもらったのかなぁ?」 「あいつはチビの頃からボンゴレだったからもらったことねぇだろ」 「なんかびっくりすることばっかりだ」 「旅行ってのはそういうもんだ」 空のリボーンのグラスにワインをそそぐ、ランボの頭をリボーンはくしゃりとなでる。 「アンタがびっくりすることあるの?」 「そりゃあるさ」 口元を弛めるだけだった。 |