愛とは、次(みらい)を信じることである。



 真夜中。
 水溜りをさけるようにリズム良く歩く黒猫の足音すら聞こえそうな静寂を破るように、ドアが叩かれた。シャマルは強盗かと飛び起きたが、入口のドアを叩く音だとわかりベッドに戻った。しかし一向に止む気配のないそれに拳銃を片手にベッドから出た。
 ドアの内側のカーテンを開きガラス越しにぶっぱなそうと銃口を突きつけ、やっとそれがランボだったことに気付いた。
「シャマル!リボーンを助けて!!」
 ランボの腕の中のリボーンを一目見て、シャマルはその時が来たのを知った。もう無理だ、とかぶりを振るがランボの叫びは止まらなかった。たまらなくなってドアの鍵を開ける。
「リボーンが!リボーンが!」
 腕の中で目を閉じるリボーンはただの人形のようだった。
   ――そう、リボーンは本来の姿である人の形をしたものになったのだ。
「寿命だったんだ」
「嘘だ!リボーンはちょっと眠れば元に戻るって言ってた」
「だったらなんでここに来た」
  ランボは自らそのことを疑っているとは認めたくなかった。
「だってまであったかい!」
「――直に冷たくなる。もうその容れ物にリボーンはいなくなったんだ。魂は入っていねーんだよ」
「あんただったら戻せるだろ?」
「俺は太陽を西から昇らせることはできねーんだ。あきらめろ」
「ひどいよ、アンタは悲しくないの?」
「黙れ。辛いのがおまえだけだと思うな」
   ランボはリボーンを抱きしめる。シャマルも同じ気持ちだと少しだけ心が軽くなる。
「ったく、つまらん物を持って来やがって。他のプランツ達が悲しむだけだってのがわからねーのか」
   ランボは余りの言葉に肩で息を吸った。
   リボーンがいなくなって、悲しいのは自分だけだという現実を受け入れるのに数秒かかった。
   シャマルはランボのジャケットの襟を掴み上げて外へと引き連れて鼻先でドアを閉めた。ご丁寧に錠前の音を高く響かせられる。ランボは放り投げられた格好のまましばらく過ごした。
   わかっていた。リボーンがもういないことを。
   でも、シャマルならなんとかしてくれるって、思っていた。信じていたかった。リボーンは電池を入れ替えれば再び動き出すおもちゃじゃないってわかっている。だけれども、こんな形で永遠の別れが来るなんて考えられなかった。あっていいことじゃなかった。
 
 ドアの横でしゃがみこみ、リボーンを抱え直す。秋口の夜半はじんわりと寒さがしみてくる。ランボは感覚が欠落したのか、朝日が訪れ空が白み始めるまでそのままじっとしていた。ふと、立ち上がりどこかへと歩き始める。あてなど、この世界のどこにもないと言うのに。






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