愛とは、時々我が身を振り返ることである。



 誰がこんな名前をつけたかわからないが、大体正確な人種だってわからない。まぁ元々人間じゃないけどな。イタリア生まれのイタリア育ちの筈だが、名前は英語のre・born。どんな願いをこめたのやら、俺は見事に再生してやった。
 プランツ・ドールとして自我を持ち、ランボを見つけ、偽りながらも命を賭けた、いや賭けさせられた。

 ビアンキから見せてもらった一葉の写真。そいつが大ビンゴだったとは神様も大概気まぐれだ。

 笑える電話で起こされて、寝直す気にもなれなくて煙草に火をつける。寝息をたてるランボを見ていると無性に泣かせたくなるのは性というものだろう。
「アホ牛、昼過ぎに戻るぞ」
 寝ている耳元に告げると、腕を首に巻き付けてきてモーニング・キス。
「行ってらっしゃい子猫ちゃん」
 ったく誰がこんなアホに育てたんだか。まぁ半分は俺の責任なんだがな。

「そんなわけだ」
 人好きのする、が食えない笑いを張り付けてイエミツと名乗る男は開口一番前置きなしで言い放った。
 早朝のホテルのダイニング。
 アメリカンスタイルのホテル特有の様々なメニューの匂いが立ち込める。ブッフェスタイルには慣れそうもない。しかし、エスプレッソは美味い。ほんの少しの砂糖で苦味を増してゆっくりと味わう。
「問題はなんだ?」
 俺の返事を待たずに畳み掛ける、その顔を改めて眺める。髪と不精髭は金だが明らかにアジア系。葉巻が似合う貫禄もある。オーダーメイドのスーツを隙なく着こなして脇と脛に拳銃を装備し、コーヒーカップを持つ手は武道を修めたソレだ。何者か断定する要素が多すぎて反対にわからない。
「ベビーシッターに興味がない」
「逢ってから決めてもいいぜ」
 会話を成立させず、俺と同じように無遠慮に俺を頭から爪先まで検分する。
 挑発だ。
 俺の事はしらみつぶしに調べた上で話を持ってきてるだろうに。
 だがこの緊張感は悪くない。
 イエミツと名乗るこの男は、自分が何者か調べる時間を与えず今朝、アポをとってきた。
「日本人か?偽名か?」
「日本人だよ。んで、本名。ついでにおまえに家庭教師をさせたい子供の名前はツナヨシ」
 ツナヨシ…最近、聞いた名前だ。どこで、何で?
「ボスは持たない予定だ」
「ボスじゃねーよ。カテキョだよ。あ、今誰か見てんのか?」
 返事の代わりにエスプレッソを口に運ぶ。
 ランボの事を言っているのか。それはないな。いくらボヴィーノが中小でもオメルタ(沈黙の掟)は破ることはできない。そして、ランボとはお互いの意思で一緒にいるが、そんなことをこの男に説明する義理もない。
「一筋縄じゃいかねーと思ったが、予想以上で嬉しいよ。どうだ、まず俺と一仕事して親交を深めてから、家庭教師の話を考えてくんねーか?」
「どんな仕事だ?」
「ヒトダスケだよ」
 イエミツはレシートにサインをしてウェイターに渡すと、俺を促して立った。
「ヒトゴロシじゃないのか?ボンゴレ」
 前を歩く幅広い背中が止まった。






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