愛とは、時々我が身を振り返ることである。 「呼んでくれて有難いが、その二つ名は俺は背負ってえねーんだ」 動揺を押し殺し、苦々しく笑って先を歩き出した。 俺ともあろうものが、すっかり失念していた。 famiglia del bongola―ボンゴレファミリー。シチリア…南イタリア随一の巨大マフィア。 同盟ファミリーも多いが、同数の敵もいるため実態の多くが謎に包まれている。噂では珍しくアジアンが幹部にいるらしい。何れにせよ、ランボの所属するボヴィーノなんてボンゴレの一捻りで壊滅するぐらいだ。ツナヨシという耳慣れない異国の名前は次期ボス候補というのを耳にしたことがある。イエミツは彼の後見人というわけか。 「ヒトゴロシもある、ヒトダスケだよ。こいつが誘拐された。助けるのを手伝って欲しい」 差し出された一葉の写真には黒髪の青年が写っていた。こいつがツナヨシか。 「関係ファミリーのボス候補だが、昨夜、な。オオゴトにできなくて俺が救出する予定だが、一人じゃ荷が重くてさ。お前さんフリーだろ。手伝ってくれ」 「報酬は?」 「即金で100万ユーロ」 コンシェルジュカウンターでゼロハリバートンを受け取り俺に渡す。開けると確かにユーロが整然と詰まっていた。 「暗証番号はリセットしてあるから自由にかけてくれ。ここに預けて、事が終わったら取りに来るってのはどうだ?」 ゼロハリと錠前の二つの暗証番号をセットして全部ゼロに戻し、預かり証にサインをして、コンシェルジュに返す。ボヴィーノの連絡係の電話番号も書き添える。まぁ、俺が仕損じるってことはないが、念のため。 「おまえの保障は?イエミツ」 逢ったばかりの俺等がそんな簡単にパートナーなんて組めないぜ。言外に意味を含ませると、イエミツも頭をかいた。 「そうなんだよなぁ。信頼って簡単に証明できないから、それが一番の問題なんだよ。とりあえず」 身分証明書―I.D.カードを差し出した。こんなんいくらでも偽造できるぜ、そう言おうとして足が止まった。 ボンゴレ・ファミリーの刻印入りの身分証明書。これはさすがに偽造は無理だ。名前、生年月日、肩書き、住所他身体データまで載っている。なにより、門外顧問という肩書き。これは実質ファミリーのNo.2で、そんな人間のデータは敵対するファミリーが金を積んででも欲しい情報だ。 「門外顧問、こんなもん部外者に見せていいのか?」 呆れて返すと、イエミツは笑って肩をすくめた。 「それで信用してくれんなら安いもんだ」 「バカだろ」 「んー、よく言われるわ。で、ノル?」 「おもしろくなりそうだな」 イエミツは握りこぶしを俺の肩にぶつけてきた。 イエミツの部屋に上がり、詳細を決める。 写真の青年の名前はツナヨシ。やはり、俺が家庭教師をする(と、イエミツが言い続けていた)予定のボンゴレの跡取りだった。同じ日本人と言えどもイエミツとは似ても似つかぬ鋭い眼差しと底が見えない薄い笑顔。どこか人間離れした気持ち悪さを覚える。まるで同族嫌悪のような。 「トンビが鷹を産んだか?」 「そんな感じ」 「こいつだったら俺が家庭教師になる必要はないな」 「色々問題があってね。…おまえさんのだ」 イエミツは、俺の銃の弾を箱で投げてきた。 こいつの前では見せていないのに。何故?どうやって? 「知り合いに千里眼を持つヤツがいるからさ、時々聞いてんだ」 「俺のことも、か」 「いや、どっちかってーと、ツナの家庭教師にふさわしい順番ってヤツの結果、おまえがトップだったんだ」 「はっ、光栄だな」 おかしいと思った。ランボはボヴィーノのヒットマンとしてマフィアの中で名前は広がっているが、面倒を避けるために俺の存在はボヴィーノ関係者全員に緘口令を強いていた。ボンゴレが知る術がないのだ。秘密主義の上に、優れた情報屋も囲っているとは、情報面でも警固なはずだ。 ダイニング・テーブルに地図を広げて、目的地とプランの確認。 ボンゴレのアジトから結構距離がある。 「誘拐されたのは、アジトじゃなくて街中なんだ。すぐ緊急配備をしたけど、空を使われてな」 「まだ生存しているのか?」 「優秀なボディ・ガードがついているからツナヨシには危害は加えられていないし、これが−と、携帯サイズのモニターを出し−ボディ・ガードにつけている発信機とツナの生命反応だ」 「出てこれねーのか?その優秀な、とやらは」 「それができねーんで、俺とおまえが行くんだ」 「リボーン、だ」 「俺とリボーンでツナヨシを助けに、行くんだ」 イエミツはやっと真面目な表情で俺をみすえた。 床に無造作に積んだ武器類を選んで、チェックしていると、ランボのことを思い出した。隣の部屋で電話をする。 『…ブオンジョルノ』 「もしかしたら今夜は帰れないかもしれねーぞ」 『あーい。おみやげよろしくねー』 昨夜、鳴きすぎたかランボは生返事のまま電話を切った。今、襲われたらイチコロだな。 「おーい、リボーン、ラブコールは終わったかー?」 コトが終わったら一度シメよう、と心に決めて電話をしまう。 |