愛とは、勘違いの積み重ねである。



「えーっと、アレ?迷っちゃった?」
 ランボはカワイイ子猫ちゃんへのプレゼント用にとある店を探していた。
 彼女から「商品は店側と決めているので、支払いと受け取りをよろしく」と地図を渡された。細い路地にある店だったので、駅前の大きな駐車場に車を止めて徒歩で探しているものの見つかる気配がない。
 ランボは約束の時間が迫っていることに焦り始めていた。子猫ちゃんはランボとの約束は守らないが、自分の決めた時間に遅れると手がつけられないほどキレられる。それでも「ボクのカワイイ子猫ちゃん」と構ってしまうのは、ランボが女タラシなわけでなく、只のおバカさんという証拠なわけで。

 段々と大きくなる不安で泣きそうになる頃、やっとお目当てらしい店を見つける。
 おおよそ彼女には全く似合わない瀟洒な店構え。
 ショーウィンドウはレースのカーテンで何重にも縁どられ、かわいらしい人形が両手を顔の下に重ねて横たわっている。
 重厚なドアを開けるとドアベルが澄んだ音を立て、店内に透明な波紋が広がっていくようだ。ベルベットのクッションやシルクで覆われた小さなソファで様々な種類の可愛らしい人形が寛いでいた。
 ――寛ぐってのはおかしいな、人形なのに。
 おっかなびっくり、といった態でランボは店員を求めて奥に進んだ。
 チョコレートの匂いが濃く鼻をついた、ら、これまた店の雰囲気にまったくそぐわない白衣を着た男が優雅にホットチョコを作っていた。無精髭に人をくったようなふてぶてしい顔をした男は、IHヒーターに小さな銅鍋を乗せゆっくりとかきまぜている。てっきり可愛らしいレース満載の”子猫ちゃん”のような店員を予想していたランボは目を丸くした。
「そんなに見てると目ん玉落ちるぞ」
 白衣の彼が親しげに話すからランボはついムキになる。
「目ん玉は落ちないよ。ランボさんは知ってるもんね!」
「そっかそっか。で、お前さんがランボなのね」
 ランボは慌てて握り潰した紙を広げた。
 地図とSr.SHAMALと走り書きされていた。
「あ、ええとセニョール・シャマル?」
「そう。さっきから店の前をうろうろしてるのは見えてたんだがな。まさか中坊とは思わなかったな」
「もう大人だもんね!」
「ハイハイ」
「もうすぐ18だって!」
 信じてくれないシャマルの鼻先に身分証明書を差し出す。
「疑って悪かったな。…コイツだ。大切に扱えよ」
 ランボに幾つかの書類にサインをさせている間に、カウンターに小さな男の子の人形を横たえた。まるで天使のような可愛らしい寝顔をしている。小さいながらも質のいいスーツを着させられていてランボの指先はうっとりと撫でてしまう。
「扱い方は…」
「大丈夫!この子をリクエストした子猫ちゃん用だから、よく知ってるよ!」
「了解。んじゃこれ差し当たりの備品な」
 ランボはお釣りの一部をチップとしてシャマルに渡し、人形を小脇に抱えた。
「チャオ!セニョール!」
 時間の事で頭が一杯のランボは説明書も読まずに帰路を急いだ。
 車の後部座席に人形を寝かせ、なんとなくジャケットをかける。






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