愛とは、同じ明日が来るのか不安になることである。



 旅行から戻り、いつものバールCODE46。リボーン専用の厚ぼったい翡翠色のカップにたぷたぷとミルクを満たしながらも、リボーンはランボの腕の中で眠りについていた。先刻まで、カウンターの後ろに飾られた「CODE46」のポスターを眺めていたのに。
「そういえば、この映画ってどんなのなの?恋愛もの?」
 ランボは片手にリボーンを抱き、片手にエスプレッソカップを摘まむという慣れたポーズでマスターのティムに聞いた。カウンターの中でグラスを磨いていたティムがポスターを懐かしそうに振り返った。
「恋愛ものっちゃー恋愛ものだけど、近未来が舞台の」
「この子、なんか男の子みたいだね」
 黒い鍔の短い帽子を斜めに被り、遠くをみつめる榛色の瞳は凛としていて、ふっくらとした頬と唇を見なければ少年に見えた。
「いやいやこれが、けっこーいい体してんだって」
「ええ?そこ?」
「……入国管理者だった男が偽造のパスポートみたいなもんを作る女性と出会って、恋に落ちるんだが、DNA上それは禁断の恋だったんだよ。哀れ男性は記憶を消され家族の元へ、そして彼女は記憶を持ったまま街を追われ外の世界に出されるんだ」
「ええ?不倫!?でもって、彼女だけ追放されるってひどくない?」
「ひでぇけどそういうルールなんだよ。でも、ひどいのは追放じゃなくって、記憶を持ち続ける方」
「あー、確かに。忘れることは、本人はわからないもんねー。オレもやだな。オレだけがずっと記憶を持っているのは…あ、でも忘れちゃうのも可哀想か」
 ランボは不意にリボーンを抱く腕に力を入れた。戻ってからリボーンは殆ど寝たきりだったのだ。心を乱す毒舌が懐かしさすら、ある。
「よー、ランボ。ラガッツォ(男の子)はまた寝てんのかい?」
「チャオ。寝る子は育つって言うけど、ちょっと寝過ぎだと思うんだよね」
 仕事の休憩中なのか、馴染みの男が背中からリボーンを覗き込んでくる。
「大きくなる前兆じゃないのか?ウチの坊主も学校から帰ってきてからも晩ご飯食べた後も散々寝倒したら一年で20cmも伸びたもんだぜ」
「ドールって成長すんのかな?」
「ラガッツォだったらいい男になるんじゃないの?」
「それは保証するな。おまえとどっちがいいツラしてんだろうな」
 ティムと常連の男達はランボの背中をばんばん叩いて笑った。みんなこの数ヶ月でリボーンの博識さに圧倒されていたのだ。夜中に発熱した子供の対応や、映画や観光名所のこと、ゴシップネタから政治の話まで彼らがリボーンに勝てる物は無かった。いつその知識を得て、どうやってそう解釈したのかというリボーン独自の発想にリボーンを赤ん坊扱いする者は誰もいなかった。
「そっか、おっきくなる前ならしょうがないよね。早く見てみたいなぁ」
 すぴーすぴーと眠るリボーンの柔らかい体をぎゅっと抱きしめてランボは華やかに笑った。






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