愛とは、信じようとする心である。 明確な目的を教えられないまま、ランボの毎日はベッドに拘束させられて電流を流されるというごーもん紛いの繰り返しだった。ランボにとっては、紛いでなく間違いなく「拷問」だったが、理想のオレ、理想のオレ、と繰り返しながらなんとか耐えていた。 ガラスの向こうでリボーンに次々と研究者たちが表や試作品を提供するのを怖がりながら、リボーンを疑わない、疑わない、と、ひたすら電圧に耐えていた。 ランボの皮膚は次第に硬さを増していった。 「電流が流れるから耐性がついてきたんだ」 リボーンは計算式で埋まった書類を見ながら答えた。 「元に戻る?このままじゃ仔猫ちゃんたちを優しく抱けないよ」 リボーンは書類から呆れた顔を上げた。ランボは特訓後の常で、シャワーで体に残る電流を洗い流した後だった。腰にタオルを巻いただけの姿で、腕をつまんでいる。 「そのうち戻るだろ。おまえが彼女だと思ってた女たちな、全部カットしたぞ」 「は?」 「おまえが死んだって全員に伝えた。心配しなくていいぞ」 「はぁぁ?」 「うぜ。今大切な計算をしてんだから黙りやがれ」 リボーンは書類に体ごと乗って、右手にペン、左手に愛用の銃を持った。 「意味わかんないよぅ」 小声で反論するとリボーンはランボを見ないまま引き金を引いた。 頬をかすって壁にめりこんだ弾を見て、が・ま・ん…と呟いて泣きながら自分の荷物の中に携帯を探した。 「ケータイは置いてきたぞ」 隣の部屋からリボーンの死刑宣告にも似た声がかかる。ランボはそのままベッドにつっぷして泣いた。 「泣くな、おまえにはオレがいるじゃねぇか」 ランボは不覚にも涙を止めてしまった。計算式から目を離さないままリボーンの横顔が見える。 何故か、きゅん、と少女のように心が震えたのは、リボーンには内緒の話だ。 ゴゾ島に来て矢のように一週間が過ぎた。 相変わらずランボはぎゃーぎゃー騒ぎながら実験を重ねていた。 「どうやって分子磁石を発生させるか、だな。必要なものは振動で、…rotBの値を求めるにはコサインをどう仮定するか…」 ランボの皮膚の電流数値表、レントゲン写真、筋力測定図、骨格表を見ながら腕組みをして睨んで思案する。 休憩中も、リボーンから離れるわけにはいかないランボは、全く理解できない話を職員とするリボーンを抱いたままうつらうつらしていた。 その頭を小さな手が撫でる。褒められた、と顔を崩すランボの期待に反して、リボーンは職員に言い放った。 「こいつの頭に天の采配がある。分子磁石の超強力なヤツを芯にした角を作れ。そうだな、おまえらの象徴の牛の角でいいんじゃないか?」 「Xデイまでに、ですか?」 「おまえらでダメだって言うんなら、他のファミリーでも他国からでも誰か探してこい」 「短期間では無理です」 「無理でも、ドン・ボヴィーノ直々の命令だぞ。泣き言なら俺じゃなくて、本部に電話できるやつがしろ」 「…わかりました。やってみます」 「短期間にこいつをここまで鍛えられたおまえらだ、やればできる。直径と美観とバランスからして、長さはこいつの指の幅ぐれーだろ」 掌を広げろ、と命令されて皮膚が強張る掌を開ける。職員がいそいそと様々なサイズを測り、頭部にもメジャーを当てられる。 「名称はアホ牛の角。アホ牛は角が完成するまで特訓だぞ」 「これ以上!?」 「死にたければやめてもいいぞ」 にっこり笑うリボーンにがっくり項垂れるランボ。 「被告だって黙秘権があるのに」 「乗り越えればモテモテの人生だぞ」 「その前に死んじゃうかも、でしょ?」 「自分の運命を信じろ」 よしよし、と今度こそ頭を撫でられて、なしくずしに特訓を了承するランボだった。 ゴゾ島に来て三回目の週末。ボヴィーノの技術班の意地でもって不眠不休で研究をした結果、リボーンの要求する代物が上がった。 ランボの特訓もなんとか数値上の目標までクリアした。 開き直ったのか痛みに馴れたのか叫ぶこともなくなったが、目だけはどんどん死んだ牛のようになっていた。自分の命の終わりが目の前にあるのだ。誰だってそうなるだろう。角の役割をなんだかんだと説明できたが、頭の中に留まるほど理解はできなかった。とりあえず雷を呼ぶため、ということだけわかったぐらいだった。 |