秋は、つとめて。



時々、クロームは骸のベッドにしのびこんでくる。骸はそんなクロームを優しく抱きしめるように眠る。お互いに男の、女の体をしているが間には性愛というものは存在しない。クロームの内蔵は骸のちからが支えていたし、骸のちからはクロームを媒介にして、クロームを守るという意志でより強力になる、お互いが生きていく上で必要だとわかりきっているのに、これ以上何を望むというのだ。
クロームは全身全霊をあげて骸のために在らんとする。ヴィンディチェの牢獄に囚われていた時、まさにクロームは骸の手となり足となった。骸が解放された今、クロームの骸の体温に包まれて、羽根を閉じて休む鳥のように骸の庇護の下でそっと呼吸(いき)をしていた。骸もまた、自分のために生きようとするクロームが愛おしくてたまらなかった。
互いに心の在り処を確認するかのように、目の前のからだに手を回して抱きしめた。


朝日が出るか出ないかの時間に起きてしまったボンゴレファミリー10代目は、何かに呼ばれるように庭へと足を踏み出した。芝生はしっとりと露に濡れて、足裏のサンダルは沈むように受け止めている。早起きの庭師もまだ仕事を始めていないようだった。
自分を呼んだなにかを探して、薔薇や沈丁花、秋桜といった草木の間を通り抜ける。僅かな気配は自分に何を言いたかったのだろう。元来、おばけの類にはからきし縁が無い。家庭教師いわくツナの超直感は向けられる悪意や誰かを守るという、どこかで聞いたボス体質で、助けを求めるかよわい声は全くひっかからないということだった。まぁ人間世界でも手一杯なので、見えない人々には遠慮してもらっていいかもな、と嘯いた。
「俺か?俺が見えてたら大変だろう。この部屋いっぱいの奴らに苦情を言われてもまだ足りねぇ」
優雅にエスプレッソカップを摘むヒットマンはそう物騒な返事をした。
――だから、怖いもんじゃないと思うんだよな。
「ボンゴレ」
振り返って綱吉はうわぁと間延びした悲鳴を上げた。
「なにそれ?」
「さすがボンゴレ。わかっちゃいますか」
「わかっちゃいますか、じゃないよ。透けてるよ」
背後にいた骸は朝日が通り抜ける半透明の姿でにっこりと笑った。足下に影は無い。
「僕は欲張りですからね。せっかくボスが一人っきりなのに、そのチャンスを逃すわけにはいきません」
いやいやチャンスとかじゃないから。何を考えているんだ、このやろうと綱吉は部屋へと帰ろうと踵を返す。
「ボンゴレ。行っちゃうんですか?」
「可愛く言ってもだめだからね。オレが用があるのはおまえじゃない」
「じゃあ、ボンゴレの為に働いているご褒美をくださいな」
「なにを藪から棒に言っちゃってるの?」
大体、自由になっただけでも特例なんだよ。言っとくけど、おまえの行動如何でボンゴレはお家取りつぶしの刑に処されることもあるんだぜ?
文句を用意して振り向く綱吉は背中から抱きしめられて阻まれた。






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