それでも世界は美しい。 自分の故郷を愛さない人がいるだろうか? この街が僕の世界だ。この街が平和であるのだけが望みだ。 だから、どれだけあの小動物に興味をそそられても、この街の外に出てしまえばどうなろうと知ったことじゃない。この美しき世界が存在するならそれでいい。 「恭さん、素性が不明な男たちがニュータウンの辺りに集まっています」 「新しい住人じゃなくて?」 「違います。一週間前に現れましたが、転入届もまだのようです」 定期巡回からの報告に雲雀は腰を上げた。 見てくる、とも、ついてきて、とも言わないのはいつものことだから草壁達は頭を下げてその背中を見送った。雲雀が行くであろう場所には既に数人部下を配置している。雲雀はそれを知っていたけれど春先のまだ冷たい空気の中、コートも羽織らずにまるで散歩のようにふらりと出かけた。建売住宅が並ぶ無個性のニュータウン。地方都市のまた地方都市なのに、住み心地がいいのか、郊外にこういう形の団地が増えてきた。団地の入口付近は建物も出来上がり、モデルハウスも賑わっているが、奥は造成中でひとけがなかった。しかし雲雀の六感はただならぬ気配を掴んでいた。 「なるほど。確かに普通じゃなさそうだね」 雲雀がその一角に進むと、黒スーツを来た男たちの集団が現れ、速やかに囲まれた。雲雀を待ち構えていたように、それぞれに武器を手にしている。 「ワオ。少しは楽しませてくれそうじゃない」 昨年、リボーンとおせっかいな家庭教師に二度も無理矢理イタリアに連れて行かれて以来暴れていなかった。強い相手を求めているわけじゃない。前に立つ邪魔者を倒しているだけだ。トンファーを両手に構えて地を蹴る。空を飛ぶ雲雀を連想させる敏捷さで一気に間合いを詰め、前列の銃を持つ男たちを吹き飛ばした。骨が折れる音と誤発の音が連発する。 「うぉぉぉぉぉっ!!」 雲雀の三倍はありそうな巨体が背後から両腕を組んで振り下ろしてくる。雲雀は髪の毛一筋分の間を置いてかわし、振り返る惰性を使い、鳩尾に肘打ちをするようにトンファーを叩き込む。黄色い胃液を撒き散らしてのたうちまわる男を蹴り上げてマシンガンの乱射を代わりに受けさせてその陰で周囲の状況を探る。 隠れる足元に手榴弾がぽい、と投げ届けられた。 爆発の直前、巨体の男の陰から飛び出した雲雀は、それを待っていたマシンガンや拳銃の弾丸の雨の中にさらされた。姿勢を低くし、地面を蹴った雲雀は自分へと向けられたマシンガンや銃をトンファーの一閃で飛ばし、男達の胴体にそのまま叩き込んだ。あばら骨が折れる音がしようが構わない。勢いを殺さずに左足を軸に右足で前に立つ男の膵臓を蹴り動きを止めると、その男を蹴って後ろに飛ぶ。宙で回転して着地しな、トンファーの先からチェーンが伸び、瞬間に突風を巻き起こした。その回転に触れた男達の足は容赦なく折られていった。 |