それでも世界は美しい。



約束の時間と場所に綱吉は草壁とその部下数名と顔を合わせた。一人で現れた綱吉に驚いた草壁達は、綱吉の記憶に残っているよりも頬が削げ落ち、目も落ち窪んでいてこの数ヶ月、辛酸を舐めていたと偲ばれる。
「何があったんですか?」
「雲雀が何者かに連れ去られました」
「いつ!?」
綱吉は胸がざわめき始めるのを止められなかった。胸騒ぎが当たってしまった。
「三月中旬です。並盛に傭兵の集団が現れて雲雀を回収して消えました。ヒバードに付けていた発信機でこの近辺に運ばれたところまでは確認いたしましたが。直に発信機も途絶えました」
「なんでオレに連絡をくれなかったんですか?」
「あなたが雲雀ならそれを望みますか?」
草壁の静かな声に綱吉は掌を握り締める。
「この世界に雲雀さんを巻き込んだのはオレだ」
「雲雀はそう思っていません」
「草壁さん達はずっと探していたんですか?」
「正直、打てる手は全部打ちましたが、雲雀の消息はある時点から先は掴めない状態です。そして、我々も何者からか追われている状況です」
「オレが助けます」
「――ボンゴレに助けてもらう事は、雲雀は決して望みません」
――こんな時なのに!!
「今、ここにいるのはボンゴレとか関係なく、後輩の沢田として来ています」
雲雀が行方不明で草壁達がずっとここにいるということはただ事じゃないと判っていた。獄寺と山本を連れてくることだって可能だった。
だけど、雲雀に対する限り、綱吉は誰かと一緒ということをよし、としなかった。
――きっと、こうなることをどこかで予感していたような気がする。
「雲雀さんはオレの大切な仲間です」
自分の言葉に綱吉は不意に胸が、目頭が熱くなり、顔を伏せた。握り締めた指には大空のリングがあり、そのリングがあったから雲雀と並ぶことができた。死ぬ気の炎、守護者のリング。考えれば、二人を繋ぐのはその二つだった。リボーンが訪れる前の日常では、雲雀の視線は綱吉に止まらなかったし、綱吉も雲雀はただの恐怖の対象で、二対の視線は決して交差することはなかった。
――でも、きっと、守護者だから雲雀さんはこんな目に遭っているような気がする。だったら、やっぱりオレの責任だ。
「草壁さん、オレはここに来た以上、雲雀さんの無事な姿を見るまで帰れません」
まっすぐに自分を見る綱吉に草壁はひるんだ。ただ、みつめられているだけなのに、雲雀とは違う圧倒的なオーラを感じる。押さえ込む服従ではなく、無条件に従わざるを得ない、包み込むような王者の、オーラ。
「それに、オレだったら雲雀さんは一度殴っておしまい、な感じがします。最も、その一発で殺されちゃうかもしれないけど」
とってつけたような言い訳を口にして、綱吉はにへらと笑った。
草壁も覚悟を決めて、収集した情報を綱吉に伝える準備を始めた。
説明をするうちに、綱吉の雰囲気がゆっくりと変わっていくことに気付いた。何かが発酵して、熟成を進めているような。あえて聞くこともせず、雲雀を目視できた最後の状況から今の状態までを丁寧に伝える。
雲雀を拉致したのは、実戦経験のある傭兵部隊を持つことのできるそれこそ軍隊かなにからしく、草壁達の調査もあるラインからは踏み込むことができなかった。地図の上にぐるりと書かれた○は山河をも含んでいた。一晩、闇雲に探したって見つけられる可能性は低い。だけど、地球上で雲雀がここにいる可能性が一番高いのだ。
綱吉は即決した。
「様子がわからない以上、これ以上待ってもしょうがない。すぐに動きましょう。何かあったらこれに話しかけてください。獄寺君と繋がっています。――獄寺君、そういうわけだから後は草壁さんから様子を聞いて」
獄寺の叫ぶ声が聞こえるようだが、草壁に発信機を渡す。
「向こうもまさか一人で来るとは思わないでしょう。そこを逆手にとって奇襲します」
草壁は黙って軽く頭を下げた。雲雀には後でかなり叱られるだろう。しかし、今はこうするしかないのだ。
「これを」
使い込まれているらしいトンファーが一組手渡された。綱吉はスーツの背中側に、ベルトに引っ掛けるように差し込んだ。
草壁は一つ、愚問を投げかけた。
「沢田さん、雲雀がいなくなって二ヶ月たちます。まだ生きていると思いますか?」
グローブをはめるのを止めて、綱吉はくしゃと笑った。
「雲雀さんが死ぬわけないじゃない」






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