転寝する場所の条件 広い敷地の東に位置する薔薇園の中を、ディーノは自身の気配を殺しつつ移動していた。辺りに咲き乱れている色とりどりの薔薇は、わずかに露を纏い陽光を浴びて透き通るような美しさだ。通路も芝生に覆われており、踏み出す足を柔らかく受け止め音を立てることはない。 やがてディーノは薔薇園の中央に立つ東屋の前に来た。白い大理石でつくられたそれは、6本の支柱を持つクラシックな形をしているが、中は意外に広いようだ。 一度足を止めると、さらに慎重に近づいていく。中に人のいる気配はない。 東屋に踏み込んだディーノの靴が、かすかな音を立てた。 ――ガッ 「いきなりあぶねーな、恭弥。」 「…足音が煩いんだよ。僕の寝首をかけると思ったの?」 雲雀の右手にあるトンファーを、ディーノは愛用の鞭で受ける。一瞬睨み合った後、東屋の端と端に別れた。 「久しぶりだっていうのに、ご挨拶じゃねーか。」 「関係ない。」 雲雀は小さく息を吐くと、ディーノの懐に飛び込み両手のトンファーを振りぬく。紙一重でそれをよけつつ、ディーノは手首だけで鞭を振り、雲雀の右の死角からトンファーの先を捕らえた。お互いに引く力が均衡して、また睨み合った。 「腕は落ちてないようだな。」 「誰に向かって言っているの?咬み殺すよ。」 眉間に皺を寄せて答える雲雀を、ディーノは楽しそうに見つめ返す。 「笑うなんて余裕だね。」 トンファーに絡まった鞭を一振りで外すと、そのまま右のトンファーを打ち込む。それを鞭で避けているディーノに、左のトンファーを下から打ち込んだ。 のけぞるようにして避けると、ディーノはその勢いのまま東屋の外に飛び出した。右頬に出来た傷から血が一筋流れる。 「次は手加減しない。」 「お前は相変わらずだな。」 むしろ嬉しそうに笑うと、ディーノは自分から仕掛けるために地面を蹴った。 |