守りたいこと



夜更けもかなり過ぎた頃、エレベーターのきしむ音がした。
間接照明が薄く点る中、獄寺はそっと目を開けた。

古いアパルトメントだが、街に沈みこむような重厚なつくりと、相反したモダンな内装が一目で気に入った。タイミングよく最上階が空いたことと、隣が警察本庁で「一緒に警備やってもらえるじゃん」という山本の冗談にややのせられるように借りることを決めた。
「眺めいいなー」
窓を全開して街を眺める山本の後ろ姿に、どーせこいつは転がりこんでくんだろ、と獄寺は迷わずキングサイズのベッドにした。食器も2人分揃えた。それに気付いた山本は何も言わずただ嬉しそうに笑った。
自分らしくない、珍しいことをしている自覚が獄寺を照れさせていた。だからその笑顔で、浮ついた気持ちがあるべき場所にストンと落ちた。ような気がした。

当たり前のようにここに住みついて、当たり前のようにここで寝て、当たり前のように「ただいま」というあいつ。
獄寺は最初、自分の心に誰かが住む事にかなり戸惑ったが、今では山本分のスペースが完全にできてしまった。
そこが埋まらない時が苦しくて、辛くて、切なくて。
ひたすら埋まるのを待ってしまう自分がいやで一緒になんて住むんじゃなかったと毎回後悔する。いつ失うかわからない、こんな思いを絶えずもつことがこんなに辛いなら知りたくなかった。いつまでもずっとこの冷たいシーツだけ知っていればよかった。
自分が10代目のために死ぬことなんて全然厭わないのに、誰かにおいていかれることを考えると立ち上がれないほど絶望にさいなまれる。

不安になると同じ言葉を繰り返す。
それは「神様」とつぶやく祈りと同じもの。一番近くにありながら、獄寺にとって一番神聖な人の代名詞。
あいつが無事であるために、彼に祈ってすむならばいくらでも祈ろう。
歌ってすむのならいくらでも歌おう。
いくらでも。いくらでも。
祈るように目を閉じて胸の内で名前を繰り返す。

隣にすべりこむ熱いしなやかな体。確かに生きているという証。
神に祈ったことはないけれど、この瞬間だけは自然と感謝の言葉が口をつく。
今日も無事でありがとう、と。






初の山獄 /だい。






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