Forza! abbracciarci!!



 十一月と言えば、シチリアではまだコートは必要ではないが、イタリア北部ともなるとそろそろ初雪の声が聞こえてくる。自分の仕事を死ぬ気で片付けて追従しようとする獄寺をなんとか抑え、その時点で手の空いていた骸が護衛兼秘書として同行することになった。急に決まった話である事と年内に立ち上げる大型案件が控えていた為、秘書室全員が手が離せない状況だった。かくいう獄寺も今や、秘書室No.2として彼自身が思うほど自由な立場でも無かった。
『てめぇ10代目に恥をかかすなよ』
『少なくともあなたよりは役に立つと思いますけどね』
 骸の挑発にのり、両手の指にダイナマイトを挟む獄寺を山本が背後から羽交い締めにして笑いながら早く出立するように促す。
『離せ!野球バカ!』
『獄寺君、家の中でダイナマイトは駄目だって!』
 綱吉に見上げられ、獄寺はおとなしくダイナマイトをしまった。相変わらずどこから出してどこに隠すのか動体視力のいい山本にも気付かせない速さだ。
『次のこんな時は獄寺君に頼むから』
『10代目がそうおっしゃるなら。騒いで申し訳ございませんでした』
 綱吉は上体を九十度曲げる獄寺に『だから獄寺君、顔を上げてってば』と言いながらも椅子の背にかけていたコートに手を伸ばした。が、とうに身支度を整えた骸によってコートを取り上げられた。綱吉は一歩、骸の前に進むと着易いように両肩を摘まれたコートに腕を通し、着させられながら『じゃ、行ってくるから。後よろしくね』と獄寺と山本を片手で拝んだ。コートのボタンを嵌める余裕も無く出かける二人に、山本がすげぇと呟き獄寺は振り返りもせずに返した。
『――お前だから正直に言うけど、悔しいけどショックだった』
 一方的に骸がじゃれているだけだと思っていたのに、綱吉の中ではすでに骸は信頼している箇所に整理されていることを目の当たりにしてしまった。骸が牢獄から出てきて数年。自分と”10代目”が過ごした期間の何分の一以下の時間で追い抜かれてしまったことを獄寺は自覚して唇を噛み締めていた。慰めようがない山本はどうしようもなく、同意の言葉を吐くにとどまった。
 そんな二人のことなど預かり知らぬまま機上の人になった綱吉は、骸から手渡された資料に目を通し終わる前にミラノに到着した。






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