Forza! abbracciarci!! 今回、ミラノを基盤としたファミリーのボスが代替えとなり改めてボンゴレと友好関係を築きたいと招待を受けた。それを綱吉は通常の外交ではなく、政治基盤も経済基盤も違うミラノから地元の活性化へのヒントになるものは何かないかと、観光に重点を置いた視察に変更した。 他ファミリーのボスが自分のシマで襲撃を受ける、なんて醜聞はたてたくない筈だろうし、なによりそのファミリーの実力を見ることにもなる。ということで、綱吉はハイヤーとボディガードを断り、実際に自分の目で見て歩くことにした。 『貴方の縄張りをチェックしたいんじゃないんです。経済的にも自立している“街”を見学したいんです。携帯電話も置いていきますし、どうぞ二十四時間監視をつけてください』という表の顔に『実は、イタリアに来て観光らしい観光を全くしていないので、ボンゴレの目を盗んで観光したいんですよ』という茶目っ気でもって昼間のフリータイムを確保した。そこまで言うのなら、と孫ほどの若いボスに素直に甘えられて、老齢のボスは寛大に許可した。その代わり要所要所で関係者とのアポイントメントを要求してきた。 綱吉も護衛を断った手前、秘書兼ボディガードとして連れてきた骸の責任は高くなり、ボンゴレ本部にいる時と違って、率先して綱吉のサポートをした。あからさまに周囲に人影がいない分、綱吉は透明な糸でがんじがらめになっているような気がしてそっとため息をついた。夕刻、メトロの座席はほぼ埋まっていて、立っているのは綱吉の前の骸とドア付近に立つ数人の学生達だけだった。綱吉のため息に骸が視線を下ろす。右目は青く見えるようにコンタクトを入れていた。 「歩き疲れました?ホテルに戻ったら明日のスケジュールを調整しましょう」 「お前が笑うと不穏だ」 「光栄です」 骸はにっこり微笑むと、掛け合いのように綱吉は眉間に皺を寄せる。マフィア然とした格好ではなく、スラックスにパーカーとジャケットを合わせ、その上からベージュのコートに身を包む綱吉は学生にしか見えないから、よけいにその仕草だけが大人びていてアンバランスさをもたらす。骸はネクタイこそないものの、グレーのスーツに黒のシャツとカシミアコートを軽やかに羽織っていた。 自分のことを人にさせたがらない綱吉の荷物には原則手を触れることはない。綱吉がボンゴレに連絡を入れて夜の会食の準備をする間に、骸は事務的な連絡をボンゴレとミラノ両ファミリーの秘書室とすませ、明日のスケジュールを整理した。自分がなんでこんなに忙しいのかわからない、というドン・ボンゴレの為に休日を絞り出した。 四時間後、夜半過ぎに戻った綱吉は、無理矢理に呑んだアルコールに体中を占拠された綱吉は「明日は寝たいだけ寝てください」という骸の言葉に無防備な返事とにへらとした笑顔を残してドアに向こうに消えた。 果たして三十分後、念のためにとドアを開けた骸が見たものはターンダウンされたベッドに辿り着かずソファで丸くなる綱吉だった。靴から始まって、ネクタイ、ベルト、そしてスーツが順番に脱ぎ散らかされ暖房が効いているとはいえ、シャツ一枚で眠る姿に、骸が額に手をやって天を見上げたのは言うまでもない。 「契約外ですよ、こんなの」とぼやきながら骸は綱吉をベッドにおしこんでスーツを全部椅子にかけた。ハンガーにまでかけると綱吉が自己嫌悪に陥るのが見えているからだ。なに、一晩ぐらいハンガーに吊るさなかったからといって形崩れするものじゃないでしょう、と適度に片付けて最後に部屋の灯りを消した。ふと思い出して、枕元にミネラルウォーターのペットボトルを置いた。綱吉がなにか呟いたようだったが明瞭な言葉になっておらず、どこの国の言葉かも判別できなかった。綱吉が何を見ているか触れればわかるだろう。けれどそこに何の意味も見いださない骸はおやすみなさいと日本語を投げかけるに留めた。 |