Forza! abbracciarci!! 「寝坊した!?」 「ボンジョルノ。お好きなものをどうぞ」 寝癖を残してガウンを羽織っただけの綱吉が飛び込んで来たのに、骸は慌てず騒がず理想の英国風執事よろしく経済新聞とルームサービスのメニュー、そしてオレンジジュースを差し出した。 「今日の予定ってどうなってるんだっけ?午前中オフ?」 「丸一日ですよ。お好きなようにお過ごしください」 ダイニングテーブルの椅子を引いて座らせる綱吉の前に、ミラノの観光案内のサイトを表示したノートパソコンのモニターを置く。冷たいジュースに顔をしかめながらもエスプレッソよりマシだと綱吉は一気に飲んだところに、暖かいカフェオレが差し出される。用意周到な骸に毒でも入っているんじゃないかと冗談で返したら睡眠薬でも入れましょうか?お疲れでしょうと返された。貴重な休みを寝て過ごすなんてあり得ない!と息巻いたものの、さりとてやりたいこともなく。ご飯とみそ汁が恋しいなぁとぼやいていたら「ミラノにも日本食レストランがありますよ」とまじめに返された。 「どうせなんちゃってだろー。――骸は何するの?」 行儀悪くテーブルに片頬をくっつけて見上げる綱吉を骸はさりげなく無視する。 「だってさー山本も獄寺君もいないのに一人で観光したって楽しいことないじゃん」 「その観光をしたい、と今回向こうの誘いを無碍にしてるくせに」 「うっさい、うっさい」 美術館とかブランド物も興味ないし、なにより有名な場所は昨日二人で回ったしね。と本人は無防備に甘えてくる。せっかく作ったオフに文句を言い兼ねないボスに骸は二、三策略を巡らせる。 「なぁ骸、これってダ・ヴィンチの…della scienzaだから科学博物館?でいいんだよな、これ、行こうよ」 「――わざと誘ってますね?」 寝転がったままマウスを操作する綱吉は骸に視線をよこした。 「――どうせ暇こいてんだろー?」 「その台詞は、アルコバレーノだけに向かうものだと思っていました」 エストラーネオファミリーで実験体にされた復讐心からマフィア殲滅を謀り、ヴィンディチェの牢獄に投獄された骸が実験を連想させる物を好きな筈はない。そんな彼をレオナルド・ダ・ヴィンチというイタリアが世界に誇る科学者の科学博物館に連れて行こうというのだから綱吉も相当タチが悪い。元々、綱吉を尾行して警護する予定だった骸は溜息まじりで同行を了承した。 イタリアに来てからというもの、どこぞの皇族並みのSPに囲まれている綱吉はこの国での日常生活の過ごし方に全く触れてこなかった。家庭教師にいたっては『いざとなれば空を飛んで帰ってくればいいさ』と一笑に付した。なので骸は今回の出張の目的に綱吉の自立を付加し、目的地までのアクセス方法、シチリアには無いメトロの切符の購入から乗り換えまで綱吉に任した。間違おうがどうしようが一切骸はタッチしない。一般の観光客よろしく、地図と路線図と首っ引きで綱吉は昨日の行程を終了させた。それもあって、科学博物館への移動も、ホテル傍のモンテナポレオーネ駅から二回の乗り継ぎを経て、サンタンブロージョ駅へと問題なく辿り着いたわけだが、そもそも「振り回される側」だった綱吉が誰かを先導する、ということは苦手なことだったと本人も途中から思い出した。軽い悪戯のつもりで言い出したこのプランだが、骸の困った顔を見たい筈が自分が困るという当初とは違う方向へと状況が進んでいった事で少々バツが悪かった。それでも、スリが多いメトロの中でも油断することなくあそこから襲われたらこう対処して…と自然とシミュレーションをしてしまうのは容赦なく鍛えられた危機管理能力の高さたる所以だろう。 |