沈黙は死



部下を従えて廊下を歩く男はその両腕に青年を抱いていた。
男の胸にうずめるように傾く白い顔を隠すように、グレイの髪がかかり、男の歩みと同じリズムでサラサラと揺れた。部下がドアを開く部屋は、青空を臨む天窓が広くとられ、室内に太陽の光が隅々まで降り注ぎ、部屋の中央には天蓋付きのベッドがあり、何重にもレースが垂らされやさしい印象を与える。
男は青年をそこにそっと横たえた。
青年の顔を隠す髪の毛を耳にかけ、額に手を当てて様子を確認すると、反対側に佇む老齢の執事を見て何かを頼むようにうなずいた。
深々と頭を下げていた執事は、男が出て行った後、ひっそりと椅子に座り直し、目の前の青年をじっとみつめた。
白いシーツの上だとグレイの髪が銀色に映え、惜しげもなく散らばっている。豪奢なレース越しに控えめに届く柔らかな光は一筋一筋をきらめかせていた。動く様は、さぞや美しいものだろう。
反対側を向いて横たえられた彼の背中では、両手を祈るように組まされ、手首まで厳重に縛られていた。腕に極限までかけられた負荷と、その不自然な体勢が白いシャツを奇妙に膨らませている。投げ出されたままピクリとも動かないスリムジーンズからは白い踝が見てとれる。その先、裸足の指先は爪が剥がされ生々しい傷痕をあらわにしていた。よく見ると足の甲にもドス黒くうっ血している部分がある。
天窓に止まっていた小鳥が飛び立ち、その影が少年の顔をよぎると、くぐもった声がして青年が目を開ける気配がした。すぐに動こうとしないのは初めて訪れる部屋と自分の状況を確認しているようだ。
「…はっっ……くぅっ…」
歯軋りが響く。
体を丸く折り曲げようとするが後ろ手に結ばれた手に途中で阻まれる。体がおこりのように震え始めた。
「…ちっくしょう……」
顔を枕に押し付けるようにそむけるが震えは止まらないようだ。捩れたシャツの襟からは紫に変色した背中が覗く。
がたがたと震える体を押さえつける術も無く青年は自由になる歯をかみ締めるだけだった。






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