LITTLE BIT SWEET as usual



一度寝入ったら起きないのにふと、目を覚ました。
枕元の携帯をまさぐる前に、窓際の人の気配に気付いた。
「…不法侵入」
ふ、と笑った気配がした。闇から手が伸びてきて髪の毛をかき混ぜる。スーツの袖の白いシャツがやけに眩しい。
「寝るには早くねーか?」
「ツラだけが取り得らしいからね」
「いい心がけだ」
ひとしきりオレの頭を撫で回したあと、リボーンはチャオと闇に消えた。窓から出たのか、玄関から帰ったのかわからないけれど、きっと聞こえるだろうと同じ言葉を返して、目を閉じた。

いつものように朝イチでボンゴレに顔を出したら、子猫ちゃんに逢う度にクッキーやらマシュマロやらかわいいお菓子をもらった。そっか、今日はホワイトデーだ。
「ボンジョルノ、ランボ。リボーンなら一日外出だよ」
朝から資料の整理なのか、シャツの袖をまくってファイル類を抱えていたボンゴレは振り向くなりそう言った。
「やれやれ、オレがあいつばかりを追いかけていると思わないでください」
「じゃ、コレいらない?」
若きボンゴレの机にもかわいらしいラッピングがてんこ盛りだった。その横にファイルを置くと、椅子にかけていた上着の隠しから封筒を一つ。
「……若きボンゴレの超直感はどう感じてます?」
「何ビビってんの。死ぬ気弾を撃たれるわけじゃないだろ?」
明らかに楽しんでいる。先月のアレを根に持っているわけじゃないだろうに。拒否ろうが受け取ろうが結果に変わりは無い、と結論を出して封を開けた。

『期待しているぞ』

流れるような綺麗なイタリア語で一言。
「意味がわからないんですけど」
「…今日のこれはやっぱりそういうことじゃないの?」
「オレ、リボーンからチョコレートなんて貰ってないですよ?」
「……リボーンがかわいそうだ」
封筒を見たままボンゴレが呟く。
「リボーンがかわいそうなことってあるわけないじゃないですか!」
「もう一枚あるよ」
便箋は二枚重なっていて、ボンゴレが捲ると

『23:50』

と一行。
「リボーンってああ見えてイベント好きじゃん」
ええ、そうですね。ああ見えてってそうとしか見えませんけれども!
「この時間にどこかにいた方がいいよね」
ええ、オレもそう思います!でも、まるで見当がつかないし、なによりなんのお返しですか?お礼参りですか?リボーンの嬉しそうな苛め顔が簡単に想像できてちょっと目が熱くなる。
「だからさ、熱烈なヤツもらったじゃん。オレの前でさ」
……半泣きになっていたオレは涙を止めてボンゴレを見つめる。
「オレが言うのも恥ずかしい、甘いキス、貰っただろ?」
便箋を封筒にしまい、返してくる。そして、早く行け、とばかりに掌で払われた。
アレをバレンタインのチョコと言うなれば確かに貰ったけれども、お返しなんて用意しているわけないじゃん。
オレはいつものバーに走りこんで、貰える限りのカンノーリ・シチリアーニを買った。文句を言われたけれども、オレが”ホワイト・デー”で思い出すのはコレしかない。後は場所の特定だけど、オレとアイツの中で特別な場所なんてないからな。夕べだって、夢かホントのことかわからないぐらいなんだから! 息せき切って飛び込んだくせに考えるためにエスプレッソを啜りながら一月前の会話を思い出そうとする。チョコはやっぱり日本製がいいの悪いのって……。まさか。
せめてヒントぐらいは貰わないとな。と、リボーンの携帯番号をプッシュする。いつもの留守電に「ボンゴレかカターニャかだけ教えてくれ」と吹き込んだ。そのままカターニャの離発着時間を調べたけれど、23:50発の便なんて無いからやっぱりボンゴレかもしれない。
「若きボンゴレ、今夜、プライベートジェットの予約って入ってます?」
『……よくわかったね。オレのカテキョが押さえているよ』
クスクスとボンゴレは笑った。やっぱりな。この人、全部知ってたんだ。
答えがみつかって、安心したオレはリボーンに捧げるための腕の中で溢れている菓子を一つ摘んだ。
マンマ・ミーア!カリッとした筒の生地に真っ白いリコッタチーズがくるまれている、甘くて懐かしいこの味。
まさかとは思うけれども、リボーンのことだから侮れない。23:50まで後12時間。日本に行く準備でもして過ごそうか。






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