片手に愛を、片手に死を。



 久しぶりに日本はどこも変わることなく、拍子抜けした気分だった。少し休んどけ、と部屋に押し込まれてもさりとてすることもなく。毎日、空気が通っているような健康的な部屋の入り口、鴨居に両手をかけて山本は体をしならせた。ここを離れて約二年ばかり。発つ前は鴨居には頭をぶつけなかったのに、今はもう。変わったのはここではなく、自分だと思い知る。
 窓を開け放ち、桟に腰掛けて窓に背中を預ける。片足を引き寄せて部屋側の足は畳につけてもまだ余る。
 ランチタイムの終わった昼過ぎ。シェスタに似た静寂と花の香りに目を閉じる。
 高校卒業と同時にイタリアに渡った。今回は実に二年ぶりの帰国だった。
『たまには剛に顔を見せてこい』
と、リボーンから航空券を渡された。考えてみれば獄寺の身内は全部イタリアだし、綱吉の父もボンゴレ関係者で母親はしょっちゅうイタリアに遊びに来ている。自分の身内だけが日本に残っていたと全く気付かなかったのは、なんとなくだけれどもボンゴレ自体が家族のような暖かさがあったことと、剛とはどこか繋がっているような安心感があったのだ。それは子供の甘えだと気付くほどにはまだ年はとっていない。じっとしているのもすぐに飽きた。
「親父、袴貸して?」
「いいぞ。とうちゃんの部屋の一番下の引き出しに入ってる。道場の鍵の置き場所は前と一緒だ」
「サンキュ」
 昼の後片付けと夜の支度を同時にしているのを目の隅に置きながら風呂敷に包んだ袴を手に、時雨金時を肩に担いで家を出た。






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