合わせ鏡、その後



「鏡の中に現れるのは将来の恋人、ということなら」

当たってるじゃありませんか、と耳元でささやくと今まで自分に寄りかかるように座っていた茶色の頭がいやそうに逃げをうった。
そっちじゃなくって、悪魔だって言う説のほうだよとぼやく相手を逃がさないよう改めて背中から抱き込みながら骸は笑う。
水の牢獄にいたころはほとんど精神でのみ外界を認識していたので、まったく触感は無く、更に同時に見たいくつもの情景が重なって、奇妙な記憶になっているものもあるが、その中にたしかに自分に向かって手を差し伸べる綱吉の姿は残っている。
そう告げると綱吉はくるりと体を返し、腕を突っ張り、リーチ分だけの距離をとった。
その動きには逆らわず拘束をといてソファから立ち上がる綱吉を見上げる。
自ら戦い、銃をも握るようになってなお繊細な印象を与える手が座ったままの骸の頬を包む。
大人になって、ごく親しいもの以外には自分の感情をストレートに見せることが少なくなったはずの綱吉の、不機嫌そうな顔に骸は問いかけた。
「どう、しました?」
不機嫌な顔のまま片膝をソファに乗り上げて少しだけ距離を詰めた綱吉が問いで返す。
「寒くない?」
「いいえ」
「…寒かった?」
一瞬のためらいの後に額が触れそうなほどの距離で聞かれて、水の牢獄の記憶をたどった骸は静かに微笑んだ。
「いいえ。…ああ 少し違いますね。」
ん? と小首をかしげた綱吉にもう一度笑いかけると、目を閉じて、頬を包む手に自分の片手を重ねた。
「今は 寒くない、ではなくて」
子供のような体温と、わずかな吐息。
「暖かい、ですよ」
ん、と満足げに笑った気配だけが唇に触れてそのまま離れようとする。
目を開けて、今度は自分が距離を詰める。
警戒したように眉を寄せた綱吉の背を抱き寄せて少し意地悪くささやく。
「もう少し、暖かくしてもらえますか?」
「…お前ちょっとそれ、サムイよ…」
酷いですねと返すとあきらめたようなため息が近づいてくる。
「まあ そういう性格悪そうなところが お前らしい…」
語尾はお互いの唇のなかに溶けて消えた。






時系列で言うと 合わせ鏡 ユビキリ その後 の順かなと思ってます。
自分からソファに乗り上げてキスするツナと、サムイ台詞常備の骸さんが書いてて楽しかった(笑)/主任

主任から「合わせ鏡」と共にいただきましたー!ごち! 20080103






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