焦燥



オレは玄関の扉に背を預けて座る。物音をたてないように気を付けながら、立てた膝を抱え顔を伏せ、耳を研ぎ澄ませる。

扉の向こうの気配を感じるように。


三ヶ月続いたオレ達の関係をぶち壊したのは、他ならぬ山本だった。確かに、家に来たら喋るな、などと酷いことを言ったが(一応、自覚はある)、それでも山本と黙って同じ時間を過ごすことは、思っていた以上に居心地の良いものだった。一人でいることに別に何の感慨も抱いた事はなかったのに、山本の来ない日は何か物足りない感じがするようになった。もう少ししたら、オレも喧嘩腰でなく普通に会話できるんじゃないかと思ったりしていた。
しかし、山本はうたた寝をしていたオレを押さえつけ、無理矢理抱いた。オレの抵抗を易々と封じて、何度止めろと叫んでもその手を止めることはなかった。
最後は気を失ったオレが目を覚ますと、目の前に山本の頭があった。オレの寝ているベッドに肘をついてうたた寝をしていたのだ。衝動的にオレは、山本の襟首を掴むと手加減無しに殴っていた。その衝撃が痛め付けられた身体に響いて激痛が走ったが、オレはぶっ飛んだ山本を睨み付けていた。
「…帰れ。二度と来るな」
山本は黙ってオレを見返していたが、切れた唇に滲んだ血を拭うとそのまま立ち上がり部屋を出ていった。ガシャンと玄関の扉が閉まる音が響き、オレはベッドに崩れ落ちた。
あれだけドロドロだった身体が綺麗になっていたことに、その時気付いた。大きく息を吐き出すと、何故か喉がひきつれた。
「…くっ…うぅ」
何の感情の発露かわからない嗚咽が漏れた。オレの途切れ途切れの声だけが、やたら部屋に響いた。






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