焦燥 翌日こそ学校を休んだが、次の日は遅刻して行った。わざと遅刻して行ったのは、なるべく山本と顔を合わせないためだ。心配されていた10代目だけ挨拶をすると、そのまま自分の席に座った。山本の席の方向から痛い程の視線を感じたが、オレは無視し続けた。しかし、事情を知らない10代目が心配されるから、10代目がいるときだけは山本といることにした。もちろんマトモに話す事はしなかったので、10代目は気付いておられたと思うが、何もおっしゃる事はなかった。 三日後、いきなり山本からメールが届いた。それすら見たくなくて放っておいたら、玄関の呼び鈴が鳴った。 「…んだと?」 まさかと思ってメールを見ると『今日、帰りに寄る』とあって目を見開いた。 「…っざけんな!」 玄関のドアミラーを覗くと、山本の姿があった。オレは思い切り扉を殴りつけた。 「何しに来やがった!」 ――コン 小さくノックする音。 「獄寺に会いに」 「ふざけるな!二度と来るな!」 オレは山本の返事も聞かず、寝室に戻り頭から布団を被った。何故か胸が痛くて息苦しかった。あの控え目なノックが聞こえるようで、オレは両耳をふさぎ固く目を閉じた。 それから、山本は以前と変わらないペースで訪ねてくるようになった。前と違うのは、オレは決して扉を開かないこと。山本が呼び鈴を鳴らし、オレは扉を一発殴って部屋に戻る。しばらくはただそれだけだったが、ある日ドアミラーを覗いてみたら、扉の前に山本が座り込んでいてかなり驚いた。何度も「帰れ」と言ったが、その度に山本は小さくノックするだけですぐに帰る事はなかった。 二週間ほど経つ頃、オレは扉を殴ることを止めた。その代わり呼び鈴が鳴らされると、玄関へと向かう廊下に座り込むようになった。扉の向こうにいる山本が微かに音を立てる度に扉を見つめ、やがて帰っていくまでじっとそうしていた。 ――オレは何をしてるんだよ。 苦々しく煙草を噛み、煙を吐き出す。自分のしたいことがさっぱりわからない。山本を許すつもりは微塵もないのに、その気配を探るように聞き耳を立てている。その扉を絶対に開くつもりはないのに、オレはいつしかその目の前に座るようになっていた。 ――オレは、バカだ。 立てた膝に顔を伏せると、オレは頭を両腕で抱え込んだ。 |