焦燥 一言だけ送ったメールに返事はない。玄関で呼び鈴を押すけど扉が開く事はない。 そのくせ、扉の向こうの気配を注意深く探ると、すぐ側にいるのが分かる。その小さく小さく潜められた呼吸に、オレは満面の笑みを浮かべた。 この扉を開きたいのは、オレだけじゃないよな。 獄寺に「家に行きたい」と言ったことに、本当は大した意味はなかった。中学生なのに独り暮らしをしているという部屋が単に見たかっただけだ。しかし、何故か獄寺は物凄く嫌がった。最初は、いつものようにオレの言葉に突っかかってきているだけかと思ったが、話しているうちに何故か必死に拒否しているのがわかった。獄寺のその様子が気になり始めたら、何としても部屋に入り込みたくなってくる。何とか断ろうとしている獄寺がなんだか可愛らしくて、無理矢理でも部屋に行きたくなった。いつもなら引くところだけど、オレは全然折れるつもりがなかった。 「ウッルセーなっ!!わかったから、家に入れてやるよ!」 「え?マジ?」 短気な獄寺が先に折れた――単にキレただけかも。 「ただし!!」 吸っていた煙草をオレに突きつけて、獄寺は言い放った。 「オレん家では絶対に喋るな。オレは煩いのは嫌いだ」 その言葉に、オレは正直ムッとした。しかし「家に入れてやる」なんてセリフ、今を逃すと絶対に聞けないと思った。 「いいぜ。黙っていたらお前ん家に行ってもいいんだろ?黙っているよ」 オレがそう答えた時の獄寺は、思い切り後悔しているっていう表情をしていて、オレは大爆笑しそうになった。 |