焦燥 翌朝目を覚ました時、熱はすっかり下がっていた。身体のダルさと喉の痛みはまだ残っていたので学校に行く事はあきめて、とりあえず10代目には休むことをメールで知らせた。手にしていた携帯を枕元に放り出し、白い天井を見上げる。 顔の横には、少し湿ったタオルが転がっていた。部屋の入り口には、いまだに白い山本のバッグが置いてある。 「…なかったことにさせろっつーの」 サイドテーブルには、スポーツドリンクのペットボトルが置かれていた。曖昧な記憶が全て現実だったのだと主張するようにそこに存在している。かすかにだが、自分で玄関の鍵を開けたような記憶もあった。 「…図々しい奴」 顔を背けるように身体を丸め、壁の方を向いて目を閉じる。もう少し眠ろうと目を閉じた時、携帯メールの着信があった。 10代目からだった。 『熱は下がった?山本が朝まで看病してたんだってね。熱が下がったのか凄く気にしてたよ。何か必要なら連絡して下さい。お大事に』 オレは携帯を畳むと、再び枕元に投げた。ベッドから滑り落ちて床で派手な音を立てたが、拾う気にもなれなかった。 「…信じらんねぇ」 額に掛かる髪をかき上げ、痛む喉をいたわるように撫で、水を飲ませる為に身体を抱き起こした手は、とても温かかった。 「信じられるかよ」 オレは布団に潜り込んで身体を丸めると、固く固く目を閉じた。 |