frustrazione



先に帰るならこれだけ呑んでいけという冗談を真に受けた獄寺は、半分ぐらい残っていたバローニアのネロ・ダヴォラを空けた。待機していたボンゴレのハイヤーに転がり込み、すぐ眠りに落ちる。
自宅アパートの玄関口まで送られてやっと目が覚めた。覚束ない足下でエレベーターに乗り、隅に置いてある椅子に腰を下ろして、網状の外枠に顔を寄せた。鉄の冷たさが火照った顔に心地よい。5階までの時間が長く感じられる。
やっと到着して扉が開くと山本が待っていた。
「おかえり、大丈夫か?」
山本は獄寺の腕を肩に回し、もう一方の手を腰に回したが足腰が立たないところをみて、両手で抱き上げた。いつもは僅かの抵抗を見せる獄寺も山本の首に腕を回して鼻を寄せる。
「たけしー」
「おう」
ソファに下ろされるが山本の首に絡めた腕は放さない。
「水持ってくるからさ」
獄寺は煩い、とキスで塞いだ。
ネロ・ダヴォラのカシスやブラックベリーの果物の匂いが山本の舌に広がる。
「…ん…」
鼻を抜ける声が熱を帯びて、山本へと届く。
「たけし…しようぜ」
獄寺は熱っぽく潤んだ目で山本の耳を甘咬みし、山本のシャツを左右に裂いた。ボタンが飛び散るのも構わず、露わになる首筋から鎖骨から舌を這わす。
常と違う性急な愛撫に山本は一瞬驚きはしたものの獄寺の巧みな舌遣いに声を漏らす。
「甘い匂いがする…」
山本の胸元を囓りながら鼻先をこすった。
「ん、ちょっとな」
山本の指をとって人差し指を咥えて舌を絡ませる。関節の皺、爪の周りをぐるりと舌先が辿ると山本は思わず体を震わせる。
「悪い。遅くなって」
ケーキを用意していたと知る。ほんとに誰も彼もたかが誕生日なのに、と獄寺は胸の奥がしめつけられてあまりの苦しさに眉を顰める。そんな獄寺の気持ちが手に取るようにわかり、山本はそこに唇を寄せる。
「おまえはバカだ」
もっと素直に受け取っていいんだよ、と。その温かさに鼻の奥がつん、と冷たくなって伏せた目からは、はらはらと涙が零れた。
「ほんとにバカだなぁ」
山本に頭を抱えられ、背中を抱かれて酔いではない暖かさに包まれる。
「ツナからのプレゼント見せて」
なんで知っているんだろう?と見上げる獄寺は涙でぐしゃぐしゃで男前が崩れて、山本は愛しさが更にこみ上げる。キスを降らせながら説明する。
「ツナからな、電話があったんだ。もう獄寺君以外つけるのを想像できないカフスを見つけたんだけど、やっぱり身につける物は山本いやか?って。んなわけねーじゃんって返事したら、じゃ、リボーン経由で獄寺君に上げるから怒らないでねって言われた。見ていい?」
 素直に肯く獄寺のスーツの内ポケットをまさぐると小さな箱が出てきた。獄寺の頭に回した手で、二人で見るように開くと涙で濡れる今の瞳より薄い色の宝石と繊細なデザインでぐるりと囲むカフスが並んでいた。
「綺麗だな。こっちじゃこんな繊細の、なかなかお目にかかれないもんな」
うんうん、と声を出さずに頷き続ける獄寺は、目を閉じて山本の胸に顔をこすりつける。
「でもまぁ、ツナにはここにいてもらって」
と、テーブルに箱を置き、腕の中の獄寺を見下ろす。
「せっかく獄寺もその気になっているし?あっち(ベッドルーム)に行こうか?」






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