貴方、いい人で終わるタイプでしょ



風が吹いた。
ディーノは手元の契約書から開け放しの窓へ視線を移すと、前触れもなく雲雀が立っていた。
「相変わらず鈍いね、貴方」
「おまえが一流だからな」
そんなことは当たり前だと言わんばかりに受け流して、雲雀はディーノの執務机に横座りした。
「教えて欲しい事があるんだけど」
ディーノは椅子に深く背を預け直した。
「珍しい。何を?」
「貴方たちの世界の最新の情報」
「ボンゴレにもあるだろう?」
「貴方はそうするんだ」
一瞥された言葉の外に含まれたのは、おまえはニュースソース一つで判断するのか?ということ。
「目的は?」
「教えてくれないならいい」
そっけなく背中を見せて、訪れた時のように気配を消した。ディーノは椅子を蹴って、消えそうな腕を掴まえる。
「もう少し気を長く持つことも覚えろ」
雲雀は微動だにせず、振り向いた。
「五分待ってくれ。仕事終わらせるから」
「過ぎたら咬み殺すからね」

契約書の最終確認をしながら手配した日本茶を飲みながら、隣室で雲雀への授業は始まった。各国の主なマフィアやギャング、ヤクザ達の構成、武力、勢力図など。
「もう、いい」
雲雀は全て覚えるかのように口を挟まずに聞いていたが、前置きなしにディーノの説明を遮った。
「帰るのか?」
「気が向けば近いうちにまた来るよ」
「OK。……恭弥」
名前を呼ばれた雲雀は無表情にディーノに近寄り、唇を重ねた。もっと、とディーノが雲雀の肩に手を回すと、トンファーが唸りを上げる。ディーノは鞭で止め、名残惜しそうにもう一度、雲雀の唇を食んだ。
「また、な」

それから二晩空けた土曜日の夜、ディーノは執務室に誰かの気配を感じて起きた。月明かりも届かないソファで雲雀が横になっていた。
「近付いたら咬み殺すよ」
殺気が遠慮なしに伝わってくる。
「寝るならベッドに来い」
わざわざソファで寝なくてもいいのに、と思いながら返事を待っていると寝息が聞こえてきた。
ディーノはため息をついて毛布をかけると、疲れの残る雲雀の目元にキスをした。
どこかにある自宅に帰らない理由とか、ここにくる目的は皆目見当がつかない。もしかして、近くで仕事をしているのかも。
自分のところが心地いいから、なんてことは自惚れにも思わないディーノだった。






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