貴方、いい人で終わるタイプでしょ



一晩明けて月曜・火曜日の夜。二晩続けて訪れた雲雀は二晩共にディーノが呆れて止めるまで“練習”をした。トンファーと鞭。ふたりの武器はスピードを増し、当たっている音が連続して聞こえるが実際の動きは残像でしかロマーリオの目には映らなかった。イタリアに来て、実戦を重ねる毎に雲雀のトンファー捌きと戦闘能力は上がっていった。捨て身なところは変わらないが、スピードと冷静な判断力が増した分、ディーノも集中力を上げて相手をする。殺気を隠さないのだから、油断するのは命取りだ。ボンゴレでも綱吉とリボーン以外に叶う相手がいないと聞いている。だが、当の綱吉も「叶う叶わないじゃなくて、ただ単にリボーンとぼくが雲雀さんの相手をしたことがない、ってのがホントのとこなんですけどね」と、苦笑いをしていた。「なので、すみません」と頭を下げられた。雲雀の相手を頼む、相手をさせてしまって申し訳ないと二つの意味が込められた謝罪の言葉。
が、雲雀はそういうことにも勿論無頓着で気持ちの赴くままにディーノを訪れている。
「ロマーリオさん、どうぞ」
屋敷の庭で、二人の死闘を見守っていたディーノに熱いコーヒーの差し入れが届いた。
「ボス、恭弥、休憩だ。…と、言っても止めるわけはないけどな。向こうに動きは何かあったか?」
「いえ、いつもと一緒です。むしろ何もないのが不思議なぐらいです」
雲雀が急に訪れ始めていることに懸念を抱いたロマーリオは、ここ数日のボンゴレの動向を調べさせていた。加えて『9代目と10代目の会食が行われる』という話が耳に入った。これは一騒動起こっているな、とほくそえんで調査を進めたのだが、当のボンゴレには何も起こっていなかった。毛色の変わった人間が揃うボンゴレ・ファミリーはマフィアの頂点のファミリーらしくいつも大小問わずに問題が起こっていたというのに。その何もなさに、寧ろ何か起こっていると疑いを強めたが、何の埃も出てきやしなかった。自分たち、同盟ファミリーに害をなすことを企てられているとは思わないが、なんともはっきりしない。
「引き続き観察しててくれ」
部下に命じていると、汗と血まみれのディーノが近寄ってきた。
「何を観察するんだ?」
「着替えたら報告します。恭弥は帰りました?」
「あぁ。あいつ、どこまで強くなんだろうな。もうついていけないよ」
興奮を治めるように奇声を発しながら屋敷に戻るディーノの背中を見て、ロマーリオは柔らかく微笑んだ。敬愛するボスが雲雀のことにかまけすぎて、あまりにも自分のことに無自覚なことに。
雲雀と闘いながら自分の技を磨いて、益々強くなっていることに気付いていない。傍目から見ていても、鞭のしなりの角度が急になった。威力が増した。軽快さと重さを感じ死角がなくなってきた。戦いの女神エニューオーに魅入られたのは雲雀だけじゃなくてボスもだ、とロマーリオはディーノの背中を見ながら十字を切って神に感謝した。






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